垂直落下式サミング

板尾創路の脱獄王の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

板尾創路の脱獄王(2009年製作の映画)
3.5
実在の脱獄王白鳥由栄をモデルとし芸人の板尾創路が監督・脚本・主演を務めた作品。タレント監督の素晴らしいところは、普通の新人作家だったらあり得ないような予算で初監督作を撮らせてもらえることだ。自分の演者としての適正を客観的にわかっている人がやるとすごいものが出来たりする。
板尾のタレントとしてのイメージどうり、この映画の脱獄王は普段から何考えてるのかわからない変な人にみえるし、その存在そのものが異質で、何かとんでもないものがそこに横たわっているかのようで気色悪い。なのに脱獄を試みる場面はかなりイケメンに撮られていて、角度によっては髭モジャのオダギリジョーみたいにみえる。実は板尾はタレントとしての自己コントロール力がとんでもなく高い人なのかもしれない。
独房で看守からリンチをうける場面は本当に殴られてるんじゃないかと思わせるような臨場感で、ずっと手錠を付けさせられている手首が擦れて皮が捲れて蛆がわいているところなど美術のディテールも細かい。仰天ニュースの再現VTRに使われるのと同じようなセットなのに、ここまで表現しているのはなかなかない。たぶん吉村昭の『破獄』とかを参考にしたんだろう。
ここまで苦労してこれかという終わり方はエンターテイメント作品として明らかに破綻しているが、ベタなのに気まずさが蔓延する不思議な結末はある種突き抜けているのかもしれない。
といってもタイトルが2回も出るのはスマートじゃない。やっぱりところどころ不格好な部分は目立つので、ハナからありふれた物語の枠におさめる気がないのなら芸人監督はアイデアや演技に専念して、撮影や編集はプロに一任しちゃった方がいい。松本人志映画とかにも言えるけど、お話しの方向を定めたあとに骨組みを作って肉付けする役がいればもっと良くなると思う。