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ドリームのumisodachiのレビュー・感想・評価

ドリーム(2016年製作の映画)
4.0
いやー、おもしろかった。最初からずっと泣いてしまった。



黒人分離政策が行われていた時代の話なので、彼女たちは有色人種&女性という2つの偏見に晒されていたわけなのだが、3人それぞれの闘いがしっかりと描かれていて、見せ場も十分。



ミュージカル化したらとても面白くなりそう。黒板に数式を書いていくのとか、ビジュアル的にも派手だし。基本的には自宅とNASAしか出てこないし。舞台向き。山場になるシーンが次から次へと出てくる上に、時代的に衣裳も素敵なので、華やかなミュージカルになりそう。



そして、差別。



この作品に登場する人種差別は、静かなものだ。道端で黒人を罵る白人などは登場しないし、レストランから無理やり引きずり出されて悔し泣きする黒人も出てこない。



ただ、当たり前に差別がある。



トイレは白人と有色人種で分けられ、図書館も白人用スペースと有色人用スペースがある。女性は「難しいことが苦手」だとナチュラルに思われていて、黒人女性は管理職になることも技術者となることも、「前例がないから」、とてもじゃないけど認めてもらえない。



この作品に出てくる白人たちは、自分のことを差別主義者だなんて思っていない。「私、偏見はないのよ」という白人上司に
、主人公のひとりはこう切り返す。「あなたがそう思い込んでいるのは知っていますよ」



白人と有色人種の間にある明確な区分に対し、疑問は感じない。なんなら、その区分に気付きもしない。だって、昔からそうだったから。それは当然のことだから。



人種差別が当たり前だった時代の、そんなマジョリティたちの無自覚と傲慢を、何度も何度もつきつけてくる。その度に、私は身を切られるような気がした。私もまた、彼らのように自分の中にある偏見に鈍感になってはいないだろうか?



話は変わるが、昨日OAされた「とんねるずのみなさんのおかげでした」特番で復活した『保毛尾田保毛男』コーナーに批判が集まっているらしい。Twitterでは、「こんなことでクレームつけるなんて息苦しい」「昔はそれで面白かったんだから、今文句つけるのはおかしい」といった反応も散見される。むしろ、そういった意見の方が多いかもしれない。きっと彼らも、「性的マイノリティに偏見はない」と言うのだろう。



当時だって、確実に傷ついていた人はいたはず。『ドリーム』の3人が人種差別に怒り抗ったように、声を上げて行動した人々がいたから、いま『保毛尾田保毛男』コーナーに異議を表明する人が、こんなにたくさん表に出てこられるのだ。恐ろしいのは、偏見に無自覚であること。『ドリーム』の世界は、決して他人事ではない。



『ドリーム』の3人は、相手の差別意識に触れる度に、静かに、だがハッキリと抗議を唱える。彼らは揺るぎない自身を胸に、常に毅然とふるまう。



これは、「可哀想な女性たちが、努力と周囲の協力で幸せを掴みました」なんていうストーリーではない。彼らは泣いたり震えたりしない。正々堂々と、自分たちを認めさせる。とにかく、めちゃめちゃカッコいいから、ぜひ観てください!



※ちなみに、私が今まで観た中で1番素敵なプロポーズシーンがありました。
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