風の民1980

たたら侍の風の民1980のレビュー・感想・評価

たたら侍(2017年製作の映画)
4.5
先ず、刀で斬って血が出ないから、リアリティが無い、とか地味だとか、相性がどうとかの書き込みがあったので、そもそもの話から書きたいと思う。
たたら侍は、黒澤映画のモノマネでは無い。
モントリオール映画祭での受賞は簡単ではないし、欧米の映画人は、世界のクロサワを研究し尽くしているから、もし黒澤映画のモノマネ映画だったり、映像が美しかったり、セットが良かったりというだけで、賞など与えられるわけが無い。
きちんとした評が乏しいのは、もしかしたら、映画を観る側も、アメリカ病にかかっているからかもしれない。
ここに書き込んでいる多くの人は、映画好きの方々だと想像するが、例えばアフリカやアルゼンチン、イランやチリ、ベトナムやベルギーなどなどの国の映画を観た事があるだろうか。
いや、もう少し身近なドイツやイタリア、フランス、イギリスなどで作られた映画をここ数年で何本観ただろうか。
ここのレビューを読んでほとんどの人が、邦画以外はアメリカの、しかも大作しか観ていないのでは、という気がしたのである。

たたら侍の主人公が失敗を繰り返しながら、最後は生きていることに意味を見い出す、
これだけでとても大きな前進だと思う。
示唆に富んだ素晴らしい作品だと私は思っていたので、色々なところでの酷い書き込みに疑問が大きくなってしまった。
世界の映画は多種多様、映画の見方も多種多様。
アメリカ映画のプロットにどっぷり浸かってしまい、偏った価値観に溺れてしまってはい やしないか。
日本が、日本人が、世界の常識から逸脱していないか、このたたら侍を観終わった後、自問自答してしまった。
因みに黒澤映画もまた斬られても血は出ない。
一度だけ、椿三十郎のラストシーンでのみと言っていい。
雰囲気で、自分たちの価値観で判断することの怖さと失敗を繰り返しても繰り返しても、時の空気に抗えない民衆の愚かさを描いている映画を
ちゃんと解る人が少なくなってしまったとすれば危機的状況かもしれない。
出演俳優の不祥事で、上映中止や、内容カットなどは、正に、この映画を解らない愚民によるものとしかいいようが無い。
映画は、料金を払って観るもの。
観客が選択する権利があるはず。
中止は論外。カットは作品の自殺行為。
国外で、そんなことしたら製作側が訴えられてしまう。
気がつかない内に映画はアドレナリンが出るものばかりを観ていて、共感や感動する映画が、面白い映画だと慣らされてしまっている国民には
問題の本質など解る訳もないか。

モントリオール映画祭での審査員長のコメント
は、黒澤映画などの往年の名作と同じような感じだが、新しいアプローチで現代的、と評している。
わかりやすいストーリーや最後は成功したりハッピーエンドの映画ばかり観てる人ばかりの日本は
どうなるんだろう。
世界の映画祭での受賞は伊達ではない。


この映画は、現代の日本をよく表現していると思う。いや、世界かもしれない。
風の民1980

風の民1980

風の民1980さんの鑑賞した映画