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アリス&ピーター・パン はじまりの物語のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

1.5
【ハリボテの国のアリス】
内戦の凄惨さから目を背けるように寓話の世界に置き換えていく傑作『パンズ・ラビリンス』があるが、それの2020年代アップデート版として本作が登場した。本作の特徴は、黒人がピーター・パンとアリスを演じているところにある。だが、昨今の女性版xxxみたいにマイノリティや抑圧されている側が名作のヒーロー/ヒロインを演じる作品とは趣が違う。黒人だから抑圧されているというメッセージは薄く、シンプルに長男の死という喪失を乗り越える話に全集中しているのだ。黒人だけの問題ではなく、普遍的な家族の物語に落とし込もうとしているところに好感を抱く。

排ガス立ち込める陰惨とした都市から離れた田舎町で空想の強さを信じる家族が、長男の死で崩壊する。母親はブツブツと長男がまだ存在するように振る舞う。父親は空想を信じられなくなってくる。そんな家族をまた元気にしようと次男はピーター・パンに次女はアリスになるのだ。どちらも現実逃避を象徴する寓話だ。ピーター・パンはピーター・パンシンドロームという言葉がある程、空想で生きる象徴である。次々と増えていく謎の仲間を従え、旅をする。アリスは、大人の不条理を子ども目線で描き、子どもの身体的成長と精神的成長の乖離から来る困惑を象徴させている。

ただ、本作はいささか寓話を飾りとしか使っていない。

特にもったいないのは『不思議の国のアリス』要素である。家族の崩壊を寓話に転換するのであれば、「消えてしまいたい」気持ちを表すように極小レベルまで小さくなるか、あるいは癇癪を起こして家を破壊する様子を巨大化で表現する方法が有効である。実際に本作では前者を採用している。酒をDrink Meと描かれた瓶に置き換えるというアイデアまでは良かったが、CG処理の都合なのか、一瞬ドール人形サイズに小さくして終わりである。その状態から何が見えるのかレベルまで描けておらず、『不思議の国のアリス』ファンへの軽いリップサービスレベルに留めているところがもどかしい。

結局のところ、Wikipediaレベルの表面的な寓話の引用で家族の再生を描く薄っぺらい話に留まっており、なんだかなと思いました。日本だとAmazonあたりで配信スルーとなりそうな作品だ。
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