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君の名前で僕を呼んでのSNGのネタバレレビュー・内容・結末

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

ふんわりした映画だった。
景色や映像がきれいで、一夏の恋に区切りをつけてきた息子へ語る父親の言葉、冬になりオリヴァーから結婚の報告をされ決別を告げられた後、暖炉の前のエリオを写しながらのエンドロールが美しくて秀逸だった。
母親から名前を呼ばれて振り向いて、そうして終わるところも良い。
でもなんかこう詩的な映画というか、どういう気持ちでこれを捉えれば……??ってしばらくなってしまった。どうして自分の名前で相手を、相手の名前で自分を呼ばせたんだ!?
よくよく話を解釈してみると、
オリヴァーは大人としての分別があり、社会的な立ち位置もあり、世間体があり、だから同性愛者である自分の気持ちと、社会的にあるべき姿とを天秤にかけてどちらかをとらねばならない。
エリオは自分の感情を不可解なものとして初めは処理するけれど、受け入れて仕舞えば失うものもなく無垢であるために、自分に正直に行動できる。
オリヴァーはエリオに惹かれているけれど、それを受け入れることができない。エリオが自分に想う感情は、異性愛者の一時の迷いのようなものかもしれないとも思う。
だから逃げるんだけど、自分の感情を無視することができずにエリオと関係を持ってからは、エリオに自分のことを忘れさせたくない、自分もエリオを忘れたくないという気持ちがあったんじゃなかろうか。
オリヴァーはエリオとの恋は有期的なものであると初めから覚悟してエリオを受け入れ、だからきみの名前で僕を呼んで、僕の名前できみを呼んで、きみが名前を呼ぶたびに一生僕のことを思い出して、僕が名前を呼ばれるたびに一生きみを思い出すから……ってことだったんじゃないか!?
ということに、思い至り、だから母親がエリオの名前を呼んで振り向いてブラックアウトのラストの演出すごいなー!と思うなどしました。なるほどね。
1983年の話ということで、同性愛者に対する偏見、ここに極まれりの中で、世話になっている教授の息子に手を出しかねない状況……、オリヴァーにとってみればリスキーだよなぁと思ったけど、ビーチバレーのシーンで既に手を出す気満々で釜かけとったんかってのちにわかってしまったので、それが本当なら純愛ものじゃなく大人に遊ばれた子供の話になってしまう……?と、思ったけど、エリオの視点での話なのでオリヴァーの気持ちがどうあれ結局は純愛ものなんだよな。
男であれ女であれ、初めてまっすぐにひとを愛して、別れを告げて見送った。
10代の感受性の強い時期にそういう経験をしたエリオを父と母は優しく迎え入れ、今感じている感情を大切にしろ、得難い経験をしたのだと諭す。1980年代にあって、とても理解があり、愛情の深いご両親だなと思う。二人が結ばれないことも理解した上で、エリオにオリヴァーを見送らせる決断をしたのも両親で、エリオはオリヴァーと二人だけの旅を得ることもできた。
オリヴァーの気持ちはどうあれ、エリオにとってみれば憧憬であり、初めての恋であり、初めての喪失でもあったわけなので、まぁやっぱり純愛ものだったんだよな。
でもオリヴァーもやっぱりエリオ以上の重い気持ちを引き摺って夏の恋をしていたんだろうな。30歳までに心をすり減らせるその過程の男だから、いくばくかすり減ってしまった心を抱えてるはずなんだよオリヴァーは。だからまぁ釜もかけてみちゃったり、自分を抑えられないシーンも多々あったんだよな、手を出す気満々ってわけじゃなくて。多分きっと。
ふんわりしていたけど美しく、良い映画だったなと思う。もっとハリウッド的なパキパキしたのが好きなので、情緒に慣れなかったけど、ゆったりと流れる別荘地の空気感と、少年の憧憬からの恋。親切な隣人たち。そして失恋。美しいものを欲してる時にみるといいかなと思いました。
エリオの父親の言葉、全て賛同するわけではないんだけど、喪失の際、何も感じなくなることよりも、今感じている悲しみも、あったはずの喜びも、決して忘れないようにという言葉は何も恋愛の話ばかりでもないと思い、感銘を受けたのでメモ。本当に素晴らしすぎる父親だったな。
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人は早く立ち直ろうと自分の心を削り、30歳までにすり減ってしまう。新たな相手に与えるものが失われる。だが何も感じないこと、感情を無視することはあまりに惜しい。お前の人生はお前のものだが、忘れるな、心も体も一度しか手にできない。そして知らぬうちに心は衰える。肉体については誰も見つめてくれず近づきもしなくなる。今はまだひたすら悲しく苦しいだろう。痛みを葬るな。感じた喜びも忘れずに。
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