BL趣味の延長で劇場に足を運んだなどとは、口が避けても言えないような、あまりに美しく儚い作品でした。
モーリス、覇王別姫、ブロークバックマウンテン、ムーンライト…
プラトニックな恋を描いた数知れぬ名作に肩を並べ、いずれ本作が"古典"と呼ばれる日が来ることは間違いないでしょう。
のっけからエリオに感情移入し過ぎて、いつまで経っても掴みどころのないオリヴァーの心情にヤキモキすること1時間。
あの手紙に返事をもらった翌日の、ついにその"夜"を待つ一日が、果てしなく長く感じられて、エリオは何度時計を気にしたことか。
時にはオリヴァーの気持ちになって、エリオの奏でるギターの音色をいつまででも聴いていたかった。
リスト風にもブゾーニ風にもアレンジなんかしてないで、バッハはバッハのまま、ただゆっくりと音に浸っていたかったのです。
"早熟"を語源に持つアプリコットのメタファーに、何度も心を抉られるような感覚がありました。
「君の名前で僕を呼んで。僕の名前で君を呼ぶから」
君と僕、僕と君。
互いを互いに投影して、2人の青年が一つになってゆく様は、同性同士だからこそ成立する美しき協和音。
初めて体の触れ合うバレーのシーンも、水泳パンツの匂いを嗅ぐシーンも、自らを慰めるシーンも、大自然や滝を駆け抜けるシーンも、列車を見送るシーンも、電話で会話をするシーンも、
どれも一つ一つ、じっとりと濃密に胸に刻まれていって、愛おしくて、切なくて、圧倒的に美しい。
そしてクライマックス。父親からの暖かいエールの言葉から、ラスト3分半のノーカットの長回しで涙腺が崩壊したのはここだけの話にしておきます。
p.s.見終わってから振り返ってみると、冒頭の「侵略者が来た」というエリオの台詞に今さらになってやられてしまいます。