みりお

君の名前で僕を呼んでのみりおのレビュー・感想・評価

君の名前で僕を呼んで(2017年製作の映画)
4.0
ともかく美しかった。
北イタリアの水辺や森、日差し。
それらの匂いがスクリーンを通して伝わってくるんじゃないかと思うくらい、透き通った映像。

ー北イタリアのとある街で家族と一夏の休暇を過ごすエリオ。
そこへ、考古学を教える父の助手としてオリヴァーがやってくる。
背が高く、社交的でチャーミング、そしてハンサムで、誰からも好かれるオリヴァーに最初は反感を覚えていたエリオは、自分でも知らないうちに徐々にオリヴァーにひかれていく。

青春真っ盛りの少年らしくオリヴァーから目が離せなくなったり、敢えて他の女の子の話をするエリオがどうしようもなく愛おしく、オリヴァーがエリオに惹かれていった気持ちがよく伝わってくる。
お互いが惹かれ合う過程が、透き通るような北イタリアの風景をバックに美しく描かれていて、途中まではいわゆる日本の一部の女の子が好みそうなG映画になりかけそうな部分も。

しかしこの作品の要は、エリオの想いを、青春の1ページだと温かく受け入れ、彼が納得するまでオリヴァーとの時間を過ごさせる、エリオの父母だ。
LGBTI、いわゆるセクシャルマイノリティーを描いた作品の多くは、惹かれあいながらも、周囲からの強い反発に合い、ともに過ごす道を選べないものが多い。
しかし17歳のエリオにとっての本当の意味での初恋を、一つの愛の形として認め、子供の成長を見守り、別れに傷ついたエリオを温かく迎える周囲の人間が、2人の愛に華を添える。

オリヴァーとの旅行を経て帰宅したエリオに、父が掛ける言葉が極めて印象的。
この映画が穏やかなまま終盤を迎える理由はこの父の言葉のおかげだ。
「二人ともがお互いの中に優れていることを見い出し、君たちは特別な絆で結ばれた。お前は確かな何かを感じた、美しい友情以上のものを感じたんだ。そんな息子が冷静になることを祈る親が多いが、私はちがう。感情を無視してはいけない。心も体も一度しか手に入れられない。今はひたすら悲しくつらいだろうが、痛みを葬るな!感じた喜びも忘れるな!」
(劇場で観たのでかなりニュアンス)

この言葉には涙が止まらなかった。
普通なら世間から非難されないようひた隠しにし、無理矢理引き離してもおかしくないのに、息子の恋を"一つの経験として忘れるな"と語る父。
このような真の愛に包まれて育ったエリオだからこそ、困難の多いオリヴァーとの愛を昇華させられたのだろう。

毎日仕事していると、感情だけは押し殺して生きようと思う場面があまりに多い。
しかし人の心は感情ありきのものだ。
何かしらの感情があるから、仕事を頑張ろうと思える。
"感情を無視してはいけない"
エリオの父の言葉を反芻していきたい。
みりお

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