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隻眼の虎のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

隻眼の虎(2015年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

1925年、日本統治下の朝鮮。かつて凄腕ハンターとして名を馳せたチョン・マンドクは、ある事件をきっかけに銃を捨て、山小屋で幼い息子と2人きりで生活していた。一方、朝鮮総督府から害獣駆除を命じられた地元の猟師たちは、「山の神」と恐れられている凶暴な大虎を仕留めるため、マンドクに協力を依頼するが…。

「悪魔を見た」「新しき世界」などの韓国の鬼才パク・フンジョン監督作品。
人智を超えた知性と強靭な野生の肉体を持つ虎と、それを狩る猟師の戦いを描いたアクションの秀作。

害獣駆除とは名ばかりで権力と武力の誇示のため「山の神」と恐れられている隻眼の虎を仕留めたい日本軍。
雇われた地元の猟師たちと軍隊は虎を前に次々と命を落としていく。
山が雪に閉ざされる冬を前に、なんとか山の神を仕留めたい軍と猟師たちは、大量の人員と弾薬を投入し、大規模な討伐作戦の決行を決める。
彼らに協力を求められたマンドクは頑なに拒否していたが、いつしか激しい戦いに巻き込まれていく。

山の神と崇めるほどの相手に、畏敬の念をこめて対峙する熟練の猟師マンドク。
互いに殺るか殺られるか、という関係性がまるで「宿命のライバル」のように描かれていく。

そこからさらに踏み込んで、種族を超えて、家族を奪い奪われた父親同士であるという繋がりも盛り込んでいる。

かつてマンドクは山の神を追い、森で妻を誤射した過去があった。
山の神の親虎を殺した報いと受け入れて殺生を断ち、罪滅ぼしに子どもであった山の神の面倒を見ながら百姓として生きていた。
しかしマンドクの息子・ソクは恋人すら良い縁談に奪われる貧しい生活に我慢ができない。
山の神討伐隊に参加して一攫千金を狙うが、討伐隊は返り討ちに合う。
巻き添えで死んだソクをマンドクの元に返す山の神。
それはマンドクに対する恩返しか、人間への警告なのか…。

どの人間の立場も、野生を生きる虎の立場さえも、映画は非常に丁寧に描く。
それゆえに映画は冗長に感じられてしまうのが難点だろう。

もっとマンドクと山の神である大虎の因縁の対決にフォーカスを当てた方が良かったように思う。
韓国の名優チェ・ミンシクが醸し出す狂気じみた個性は、相対するライバルがあってこそ光る。
仲間の猟師や日本軍など脇役のドラマが沢山くっ付いている印象。

そのライバルたる野生の虎には人間味を盛りすぎたように感じる。
CGの虎の描写は素晴らしく、人を襲いまくる虎が悪に見えるが、話が進んで行くに連れ、因縁だけでなく絆すら生まれてくると、やや不自然に思えてしまう。

残虐な殺戮を繰り返す山の神を、マンドクが生きるために(家族や仲間を守るために)やむなく殺す戦いであって欲しかった。
また同様に虎も生きるために(子を守るため)のシンプルな戦いであって欲しかった。
子が生き残ることで未来を繋ぐ物語の方が救いがある。

時代設定的にどうしても日本軍が悪役として描かれるのは致し方ない。
虎(神)の住む山を日本軍が爆薬で冒涜していくのは胸が痛む。
そんな中で、クライマックスは全てを失ったマンドクと虎の一騎打ち。
マンドクと虎は崖から落ちて、双方とも人知れず絶命する。
もはや戦う理由などない死闘の結末は、何ともやるせない気持ちになる。

だが、それがアメリカン・ニューシネマのように生きることに疲れ、敗れた者たちの美しい死に様に見える。
チェ・ミンシクが善悪の彼岸を覗かせるようなキレた演技が見れなかったのは残念だが、結果的にはロマンチックな悲劇となっているのが良い。
無益な戦い、野生への畏怖と驕れる人間への警告。
まるで我が国の「もののけ姫」のようなテーマ性が根底に感じられる作品である。
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