金宮さん

A2 完全版の金宮さんのネタバレレビュー・内容・結末

A2 完全版(2015年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

前作に比較しオウムそれ自体へのフォーカスは弱まり、どちらかというとその周辺をピックアップしているような作りに感じた。

また森監督による言葉の登場頻度増加が象徴するように、作り手側の意思がより見えやすくなっており、それを隠そうともしていない。

「出ていけ!」の一点張りしかない地域住民の集会や、「お茶飲んでくっちゃべってるだけ」と笑われる自警団についてはあきらかに揶揄している。自分の気持ちを満たすためだけにやってる「活動のための活動家」は個人的にも苦手なのだが、今作で映ってる人たちはまさにそれ。

自家製の検問でオウム信者の荷物チェックをするが、そもそもあの人たちで何かわかるのだろうか?自分の町から出ていけと言ったところで、次への押し付けになっているだけ。しかもそのためにとりあえずノープランで集まって、信者宅の前で拡声器で大声あげてみるものの近所迷惑にしかならない。どうあるべきか?を考えたうえで最適な手段をとるべきであり、全部が間違ってるように見えた。

一方、右翼団体の「解散し補償すべき」という主張は割と合理的。「闇雲に追放するわけではない」と繰り返し、誤解へのケアも見せており誠実にも見える。ただやっぱり恫喝的な言動や、コワモテすぎるルックはなんとかした方がいい。

ラストは荒木広報担当との対話。森監督は「オウムが消えてしまうというのは最善の手ではない。まだ思いつかないが存続しやるべきことがあるはず」と主張する。

やるべきこと、、この映画のように反面教師として教材となり続けることだろうか?補償をし続けることだろうか?茨の道すぎてあまりに厳しい。無理筋が故にずるずる続けるしかなくなってる気がする。解散する、逃げるという選択肢はもてないのだろうか。歪んだ信条がそれを簡単には許さないことはわかってはいるものの。

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最もハッとするシーンは松本サリン事件の報道被害者である河野義行さんの自宅をオウム信者が訪ねるシーン。察するに、謝罪の場であると認識した河野さんが地元テレビ局を呼んでいるようだ。ただ、オウム側は謝辞を示せずなんかもじもじしてる。まずはかたちだけでもいいから謝罪文を書いてこい、と河野さんは信者たちを別室に移動させるのだがここでテレビ局側と以下のような会話がある。

(局員)「どうします?このままダメなところも流しちゃった方が逆にいいですよね?」

(河野)「いや、セレモニー的なものでもいいから、彼らが謝ったということを放送することが信者の"方々"の再生の一歩となる。さっきの、不誠実なくだりはカットしたい」

河野さんの発言は明らかに脚色への意思だが、「ドキュメンタリーや報道は脚色なし」の原則を基に、この配慮をむげにする感情は私には生まれなかった。

「報道とは?」を考えさせられる、こんな一連を森監督のカメラは全て映しているわけでありドキュメンタリーとしてもう一つ深いレベルの映像だなと感じる。

というか河野義行さん。そもそも、オウムを憎んで当然の立場。(当時、河野さんの奥様はサリンによる被害で闘病中。その後悲しいことに亡くなってしまう)

こんな破格の人格者の存在を知れて本当によかった。
金宮さん

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