アァーーーーーー

スティーヴ・アオキ: I'll sleep when I'm deadのアァーーーーーーのレビュー・感想・評価

4.5
まあ他人に持つ先入観とか固定概念というか…
その人に持つ印象というか、
決めつけだったり、偏見だったり。

日本を代表するポストハードコアバンドにまでなったenvyが、まだ小さいライブハウスで演奏していた時代に、海外のアンダーグラウンドシーンで活動するDIYバンドと連絡を取り合って交流を持ち、ひたすら日本に招聘して合同ツアーをするという試みをしていた時代。
スティーブ青木がボーカルを務めるバンド「ディスマシーンキルズ」が同じ様にenvyに招待されて日本ツアーをした事があった。

今と違いインターネットも盛んではなくスマホも無い時代。
バンドへの情報が少ない中で関係者からクチコミのみで嫌と言うほど流れてくる情報としては
「スティーブ青木はほぼ日本人だが日本語は話せないらしい」
「若くしてDIMMAKというレーベルオーナーらしい」
「ボンボンだからレーベル運営もバンドも七光りで楽に出来てる」
「カトマン(伝説的日本のプロモーター)に顔がそっくり」
という噂だった。

実際に自分は下北沢にある名門ライブハウス「シェルター」で行われた公演を見に行ったのだが、戦隊ヒーローもののショボい黄色の全身タイツで顔は全く見えないままライブをやるという内容で、正直音楽性や演奏も一聴して「カッコいい!」と呼べるものではなく、周りの人間の評価も低くて、誰もバンドについて何も話題にする様な事も徐々に無くなったように思うが、上記の特殊な噂ばかりが話の種に残っただけだった。

元々こう言ったアンダーグラウンドシーンにおいてボンボンと言う理由だけで嫌悪感を持たれるのは辛いと思う。
しかしそこでメゲずに活動を続ける理由にはやはりその「パンクやDIYハードコア」に対する情熱以外になかったんだろう、と誰しもが推測出来た。

その後レーベルDIMMAKもリリースを懸命に重ねたが我々の元に情報が届く様なバンドのリリースは少なく、次第に忘れ去られて行った様な印象があった。

その後耳に入ってきた噂は
「DJに転向して人気を博している」
という余計にアンダーグラウンド界の人達からは誤解や嫌悪感を受けかねない情報であった。
やはり日本人の感覚としては未だにDJは「チャラい」印象や「人の曲で売れる」印象が強く、それはバブル期のジュリアナの印象やマスコミの伝え方が大分本来の文化を歪曲しているからだと思うが、修行僧の様に寡黙で品行方正なイメージがあるハードコア出身の人達からしたら信念を捨てた様なセルアウトの印象は持たざるを得なかっただろう。
「スティーブ青木は完全に魂を打った」
この印象は元々あった不信感を確実にするものだったと思う。

とはいえ俺個人としてはDJの内容が気になったし、例えば映画内でも触れられている様にハードコアやパンクをひたすらレップするDJなら文句は無いのでは?と感じていたが、どうやらやってる音楽もEDMという何とも中途半端(好きな人がいたらスンマセン)な流行り音楽をやっているという事で俺個人も興味を無くして行ったが、その特殊な存在からかネットニュースでも取り上げられる様になり、挙げ句の果てには
「自分モデルのヘッドフォンをリリースした」
「DJとして世界的な成功を収めてセレブリティファミリーの一員」
というボンボン丸出しにしか捉えられない情報しか入ってこなかった。

しかし。
よくもまあ、日本の狭いライブハウスで全身タイツを着ていた男が、となったものである。
ボンボンの息子とはいえ、しっかり観衆を惹きつけて成功している才能はビジネスマン的な視点で素晴らしいと思った。
当時ディスマシーンキルズのボーカルとしての彼を知っている人なら、その闇歴史をマニアックに語り誤解が解ける事もなく、今や日本に来日してもその事実を知らない人々が圧倒的多数を占めるのが現実である。

彼を誤解をしていた私の様な人間こそ、このドキュメンタリーを見るべきである。
私以上に偏見や嫌悪感を抱いている人々は周りに多いと思うので、是非見て欲しいし薦めたいと思う。
アァーーーーーー

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