「心臓の弱い方は鑑賞をお控えください」との謳い文句も話題となったタランティーノ監督の長編デビュー作。謳い文句通りとにかく容赦のない暴力が展開される本作はその後のタランティーノ映画における指針を決定づけたといってよい。
内部に紛れた警察のスパイを探りながら、強盗団が相打ちでほぼ全滅するというシンプルなストーリーラインでここまでの味わい深さを見せるのは若きタランティーノの脚本術の妙というべき。
彼の映画には本筋と関係のない「意味のない話」が延々と繰り返される特徴がある。雑談に登場人物のキャラクターが詰め込まれ後の展開のケレン味に繋がるこの演出は自分の大好物だ。本作冒頭においても、スーツ姿の強盗団メンバーがモーニングを食べながらまるで女子会のように次から次へと脈絡のない話をする。マドンナの「Like A Virgin」の歌詞解釈に始まった会話は「ウェイトレスにチップを渡すべきか?」と縦横無尽に展開。「俺はチップを渡さない主義なんだ。マクドナルドでチップ渡すかよ?」と徹底的にゴネるMr.ピンク役のスティーヴ・ブシェミの言葉は彼の面倒な性格をとてもよく表しているし、それに対し「ウェイトレスは高卒の女の子のなりたい仕事ナンバー1だ。彼女らにとって俺らのチップは生活の一部だぞ。」と反論するMr.ホワイト役のハーヴェイ・カイテルの親分肌振りがかわいい。
こうした会話でオープニングから見事にキャラ付けされた男達が血みどろの争いに突入する様はまさに息をつかせぬテンポと迫力。その中でも特に際立っていたのは、ラジオから流れる「Stuck In The Middle With You」に合わせてステップを踏みながら人質に拷問するMr.ブロンド役のマイケル・マドセン。あの一挙一動が狂いすぎで怖すぎるし、あのマドセンの演技があったからこそこの映画が輝いたとまで思わせるほど。
余談だが、「Like A Virgin」の歌詞について誰もがドン引きするほどの極端な解釈をしたMr.ブラウン役のタランティーノは後にマドンナ本人から正式にクレームを貰ったそうだ笑。