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あばずれのMOCOのレビュー・感想・評価

あばずれ(1965年製作の映画)
3.5
「明、甘かったわね」


 「失われた映画」とされていた1965年の扇映画プロダクション第1回制作映画、渡辺護監督初監督作品のお色気映画です。
 2014年に16mmフィルム短縮版の上映用プリントが発見され観ることが出来るようになったモノクロ作品です。

 1962年に登場したお色気映画(後の呼称の「ピンク映画」)は、1964年東京で開催される第18回オリンピック競技大会に合わせた東京大改修のために東京に集まっていた工事労働者の間で瞬く間に人気が高まっていったそうです。
 渡辺護監督は山本晋也監督等と共に、そんな頃の初期のお色気映画を引っ張り、ピンク映画200本以上の監督をされています。・・・といっても世代によって山本晋也監督すら知らないかもしれませんが、渡辺護監督は美保純さんや可愛かずみさんのデビュー映画を撮った監督です。・・・といっても二人の名前も世代によっては判らないかも知れません。
 
 
『あばずれ』のモチーフは三上於菟吉の時代小説『雪之丞変化』だそうです。
 抜け荷の濡れ衣を着せられ破滅に追いやられた長崎の大店の主人の息子・雪太郎は孤児となり場末の役者中村菊之丞に拾われ、やがて女形・中村雪之丞となり一座の看板役者になっていきます。
 復習のために剣術も磨いていた雪之丞は義賊・闇太郎の助けを借りて、元長崎奉行・土部三斎とその一味に復讐をはたす「長崎の敵を江戸で討つ」敵討ちの物語です。


 東京で印刷会社を営む山川剛造は17歳の娘・立子と二人の生活に終止符を打ち、バーのホステスをしていた若い文枝と再婚します。
 
 立子は再婚に内心反対だったのですが、お父さんが選んだ人ならと再婚に賛成したのですが、剛造の財産目当てで結婚をした文枝に不信感を抱くようになります。
 文枝は、会社帳簿をつけている主任の早田が使い込みをしていることを見抜き、早田を脅すと肉体を武器に早田を誘い、剛造に200万円の保険金をかけます。
 
 文枝と早田が料亭に入るところを目撃した立子は、結婚以降変わっていく文枝と別れるよう剛造に話します。
 娘の倖せを一番に考える剛造も文枝との結婚に後悔しはじめており、文枝に別居して考えたいと話します。

 別居話を持ち出された文枝はヤクザに立子の誘拐を持ちかけ、立子は駆け出しのチンピラ明達に誘拐されてしまいます。

 心労から床についてしまった剛造は要求された身代金300万円を早田に託し、立子は明達に乱暴をされて家に帰って来ます。
 剛造は傷付き悲しむ立子を見るに耐えられなくなり列車に飛び込んでしまいます。

 剛造の葬儀が終わると立子は家を出て体を売る生活が始まり、ある日偶然明の客になり誘拐・暴行の裏に文枝がいたことを聞かされます。明は犯した立子を忘れる事が出来ないでいたのです。
 立子は「力を貸すぜ」と言う明と深い関係になります。

 文枝は手に入れた300万円と保険金でバーを買い取り、ママになり早田と暮らしはじめます。

 立子は明を通して暴力団に1ヶ月に6度も文枝の店で暴れさせホステスは恐れをなして次々と辞めていきます。
 立子は文枝と早田に剛造の名で葉書を出し文枝は怯え始めます。

 剛造の死から一年後、剛造の命日に立子は閉店直後の文枝のバーを訪れ、拳銃で文枝を脅し早田を呼び出させると文枝を車に乗せ早田を呼び出した場所へむかいます。

 別の車で来ていた明は立子の要求通りに文枝の目の前で早田を車で跳ね飛ばし早田は絶命します。
 立子は明を車に乗せると海に向かい、浜辺で文枝と明を降ろします。
 明は立子の望むまま文枝に殴る蹴るの暴行を加え、立子は明の制止を振り切ってぼろぼろになった文枝を轢き殺すと「明、甘かったわね」と呟き、この日のために利用してきた明も轢き殺し立子の復讐は終わります。


 ポルノ映画黎明期の「あばずれ」に渡辺護監督はお色気映画を意識していなかったのではないかと思うくらい過激なシーンの登場はなく、一度だけ立子の胸が露になる程度です。

 どこまで演出したら法に触れないのか手探りだった頃だったからか、映画はストーリーを重視して仕上がっており、現代なら普通のサスペンスに分類される出来映えです。

 ぽっり「疲れた」と言いながらよろよろと浪に向かって歩き始める立子の映像で映画は虚しく終わるのですが観ることができて良かった映画です。
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