真田ピロシキ

オアシス:スーパーソニックの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

3.8
近頃はDon't look back in angerをギター練習中なのでなんかオアシスの映画を見たくて映画館で見たけどこれしかないからいいかと鑑賞。当時見た時からそうだったが、本作で語られるオアシスというかギャラガー兄弟の人となりはオアシスファンなら大体知ってる内容でそこまで目新しいものではない。労働者階級のほぼチンピラ。オアシスはノエルとリアム以外にもメンバーはいるが、自分は見た目が個性的なボーンヘッド以外名前を覚えていなかったし、技量不足を理由にいびられて辞めさせられる初代ドラマーのトニー(最低だなコイツら)以外でも、精神的に参って一時離脱して戻ってきたギグジーなど活動終了まで入れ替わりが大変激しいが、付け焼き刃でもTV出演やライブは行えている。それがどうしようもなくなったのはギャラガー兄弟の不和が決定的になったことで、他のメンバーには悪いがギャラガー兄弟で成立していたのがオアシスというバンド。そんな2人はふざけてお互いをアベルとカインになぞらえていたり、ノエルは弟の華を羨みリアムは兄のソングライティングを妬む言葉を述べていたりと、時に仲良く時にいがみ合う複雑な関係にフォーカスされててそれは知っていても面白い。少し前にやったリアムのドキュメンタリー映画ではリアム側にばかり立ってノエルはやや悪者みたく語られててあまり面白いものではなかった。いや、リアムもふつーにクソ野郎やろ。「だから俺たちはお互いが必要なんだ。信じられるお互いを」人気曲acquiesceの歌詞が表すようにクソ兄弟2人がいてこそのオアシスであることを本作は見失わない。

オアシスは大変素行が悪いことで有名なバンド。あたかも戯画化されたロックンロールスターのような。それはある程度計算の上でやっているのかもしれない。リアムは言う「取材では大口を叩いて問題を起こすようにしている」と。今風の悪い言い方をすれば炎上商法だが、でもさあこんなうるさい音楽をお行儀の良い人がやって面白い?創作物、とりわけポップミュージックなんてのは作り手の人となりも含めて作品な訳で、幻想でも良いからそれに相応しいキャラが欲しいのよ。有名なブラーとの対立も多分そういう演出でやってたことでしょ。ネブワースを成功させられたのはオアシスがそれだけストーリーを売れてた証。そしてオアシスは公営住宅からロックスターに成り上がれる夢も見せていたのだが、残念ながら今はロックは金のかかる音楽となっててオアシスがそういう最後の世代になった。ロックが若年層を代弁するジャンルではもうないのだろう。

リアムの言葉でもう一つ印象的なのは「曲が良くても態度がヘタレなら退屈だ」。布袋寅泰さん、そういうことですよ。近年日本では権威主義・体制従属的なヘタレロックシンガーが目立ってて、この流れも今やロックがラディカルなものじゃなくなってる表れなのだろう。オアシスも2ndアルバム『モーニンググローリー』の後から企業に振り回されてバンドの核は削られていく。しがらみが増えるとロックな態度は死にゆく。映画がここで終わってるのは全盛期はここでその後は預金みたいなものという認識か。自分は3rdアルバムから聴き始めたので寂しい気持ちがあるが、今でも聴くのはやはりこの頃の曲なのよね。よく2009年までもったものだよ。

昔の洋楽スター映画を見ると日本公演の様子が描かれてることが多く、本作でも結構時間が割かれている。昔の日本には映すだけの存在感があったということで、果たして今の日本はわざわざ流されるだろうか。BLACKPINKのドキュメンタリーにはあった気がする。今の日本人が全体的に内向きで国外に目を向けない傾向があるし、20年後くらいの若者にはピンとこない日本の光景に映るかもしれない。