ムギ山

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のムギ山のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

とにかく全篇に緊張感が漲っていて目を離すことができない。戦後間もない頃の東アジアの、貧しくてザラッとした感じ。不良少年の抗争で、いきなり殺人が起こったりするのが、なんかえらいリアルというか作り物でない感じですごく怖い。

中学の隣のスタジオで撮影している映画監督が、半ズボンをはいてしょっちゅう怒鳴っている滑稽な人物として描かれているけど、これは監督の自嘲的な自画像なのだろうか。「あの子は素晴らしい。演技が自然だ」と小明を褒める監督に対し、小四は「自然だと? 何も見抜けないで何が映画だよ。何撮ってんだ?」と吐き捨てる。

この映画の感想を書いたブログに、参考になるものがいくつかあって、そのうちのひとつに画面に頻出する「十字」について分析したものがあった。小四のお姉さんが帰依しているキリスト教会と関連づけて論じているのだけど、はじめはそれを読んで「監督はそんな作為的な作品作りをしたのかしら? もっと素朴に、自分が過去に衝撃を受けた事件をそのまま再現しようとしただけなのではないかなあ」と腑に落ちなかったのだが、ふとこの感想は「小明は悪巧みのできる子じゃない、あの子は純粋なのだ」という小四や他の男たちの感情とパラレルであることに気がついた。よく考えてみれば、30年前の事件を「素朴に」撮影することなどできるわけがないのである(とくに、何の説明もなく背後にあらわれる兵士や軍用車両!)。つまり、この映画自体が小明のごときファム・ファタールであるとは言えないか?

モデルになった事件の当事者がこの通りの年齢だとすれば、もう75歳になっているはず。今どうしているのだろう。
ムギ山

ムギ山