うめまつ

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のうめまつのレビュー・感想・評価

4.0
岩井俊二症候群を長らく患っていた身なので、どうしても所々『リリィシュシュのすべて』を想起せずにいられなかった。勿論時代背景も主人公達の境遇も全然違うし、並べて語るなと凡ゆる方角から怒られそうだけど(すみません)、14歳頃の少年少女の繊細な揺らぎを克明に描き、自己形成の途中で環境の変化や外部からの圧力によって徐々に追い詰められ、心の拠り所を失った先に待つあまりにも危うい衝動。作品の中枢にあるものは同じだと感じた。

とにかく画面があまりにも豊か。たっぷりと余白を取りつつ的確に人物が配置されていて、風の匂いや日差しの温度や影の色や踏んだ石の感触まで感じられる。アングルも画角も全てが必然かつ的確で「そこにカメラ置いてくれて助かる〜」と10回くらい思ったし、まるで神様が切り取った世界を見ているようだった。

バスの横を走る戦車/コンバースハイカット/懐中電灯と押入れの日記/映画スタジオの天井裏/プレスリーの小猫王/壊れかけのラジオ/豪雨の夜/闇に光る日本刀/母の腕時計/誰もいない保健室/洗濯物と合格発表

本作の素晴らしさは頭では理解出来ているのだけど、どうもエドワードヤン作品との間には距離があり、自分の中に取り込んで味わい尽くせないようなもどかしさがある。本作も同様だったしやはり4時間は長過ぎた。小明も魅力的ではあったけど「男から見た危うい少女」という記号感から抜け出しておらず、私には半分人形のように映った。ラストの台詞も急にあんな事言うかなとちょっと違和感。もちろん敢えて一方的に描いているのだろうけど、彼女の生々しい素の部分をもっと見たかったな。でもそうするとこの完成度ではないのだとも思う。あと小四が役名そのままなのにチャンチェンだと終わってから気づいた時の衝撃たるや。通りで将来有望そうな顔をしておるよ。。
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