強い

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版の強いのレビュー・感想・評価

4.3
1960年、台北。目まぐるしく変化した時代の波は激しく、若者の心の動きは更に激しい。
学生同士の対立以前に、国中が大きな派閥で問題を抱えていた時代。戦後の白色テロ時代、夜間学校での実際の同級生殺害事件がモチーフ。

徒党を組む子どもたちの青春葛藤恋愛友情は子供らしくもあるのに、その反面、夜の闇のように深く鬱屈で不穏な環境に馴染み染まり必死になるような時代のアンバランスさ。
「日本と8年戦って、日本の家屋に日本の歌」戦後の台湾はまるで社会全体がギャング映画の様相だ。権力と暴力、所属と立場、貧困と寄生。人々は誰も居場所を見付けられない。大人達にも余裕なんて無いのだから、彼らに余裕なんてある訳が無いのだ。

稲妻が落ちるような大きな起承転結ではなく、繊細な心の動きや徐々に水位が上がるようにじわじわと道を逸れて行く様子がほとんどBGM無しにジッと目の前を通過して、人は変わり、社会は変わらず、揺らぐアイデンティティと最悪の生活の中で、唯一見つけた光は恋だった。やり場の無い感情は、虚しさを孕んだ結末へ。

愛らしく無邪気なシーンも沢山あるのに、その無垢さすら虚しさの原因だった。

スタジオのスポットライトよりも近くで本質をたった一つ、たった一人を照らすはずの懐中電灯の光は、まるで希望そのものだったのに。スイッチが切れれば、闇。いや、どれだけ照らしても闇は闇でしか無かったかもしれないな。


何の前情報も入れずにレンタルしてひっくり返った。4時間ある。今晩見ようかしら、くらいのテンションで課金したもんだから、うっかり見きれず2回レンタルした。ただ、その4時間に無駄が無い。一度整理してもう一度見たいとすら思う。大切な4時間だった。

小四が小明にリトルプレスリーの歌のシーン、私は後生忘れる事は無いと思う。また、会えるかな。また、会えると良いな。
強い

強い