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牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版の海のレビュー・感想・評価

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飴玉が缶の中で遊ぶような軽い靴の音、カーテンを揺らしていた夏の風、きみを待ち伏せた保健室の匂い、母の美しいドレスの手触り、午後に溶け込むなだらかな影、真夏の新緑、オレンジ・ジュース、汗をかいた硝子、お茶の葉、スニーカー、鉄砲の重さ、壊れたラジオ、戦争と平和。世界とは時に、悲しいくらいに美しくて、くだらないほどにおだやかだから、誰にも何にも脅かされることなく、生きてみたいと願ってしまう。知らぬ間に広くなってしまった少年の背中は、まるで羽が生えるのを待つかのように、無防備に、雨の下に陽射しの下に争いの炎のもとに、さらされていた。一瞬のきらめきと、永久の懐かしいいとおしさの中を、前だけを向こうと走り抜けていく、少年の広く華奢な背中、つきるまで燃えようとする命よ。

2018/12/24
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