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牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のtoriten45のレビュー・感想・評価

5.0
ものすごく引き込まれました。映画の中の世界に入り込んだような奥行きを感じます。スクリーンや画面越しではなく目の前で起きる出来事を目撃するような感覚。

本作は監督エドワード・ヤンが1961年に台北で実際に起きた中学生男子による彼女への殺傷事件にインスピレーションを受けて制作されたとのことです。何が少年を駆り立ててしまったのか?事件に衝撃を受けたエドワード・ヤンなりの解釈が映画に反映されているのでしょう。

登場人物が多いのが大変ですが、基本的には中学生の小四(シャオスー)が軸にとなって描かれます。

公安に尋問される父親。死人がでるぐらい激しく対立する不良グループ。学校の先生たちとの深い溝などなど、シャオスーを取り巻く環境は思春期の少年に逃れられない閉塞感を与えていきます。

そんなシャオスーにとって不良グループのボス(ハニー)との出会いや、ファム・ファタール的な小明(シャオミン)との恋愛は救いだったんじゃないでしょうか?それを示すかのようにシャオスーとシャオミンのツーショットシーンはどれも明るくて美しくてずっと記憶に残っています。

そんなシャオスーを、悲劇へと駆り立ててしまったのはなんなのか?

クライマックスへ向かっていくラスト。カメラは相変わらず動かないし、雰囲気を駆り立てるBGMもない。にも関わらず臨場感があり、迫力もあり、そして物悲しい……他の映画にはない工夫や仕掛けがあるんだと思います。
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