field

牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件 デジタル・リマスター版のfieldのレビュー・感想・評価

4.2
全く退屈さを感じさせない素晴らしい作品だな。特典が未見だったが監督の逸話と同時にスタッフの力量というかプロ意識が伝わる。編集の陳さんのカップ理論なんか面白かったが、何秒映すかによって視点が移り想像する物が変わってくると。
冒頭の親子が遠くからやって来るシーンも少し間があってどんな街か想像を掻き立てる。明と暗がこの地域に暮らす社会的、精神的不安も映してるように思う。リマスター以前の映像は知らないが闇は闇らしく、懐中電灯の僅かな光で何かが動く不穏な気配、リマスターの恩恵が大きいはず。
戸の隙間から覗くような感覚から引きの画で観察していく小四シャオスーの家族を中心とした街の人々、戦後大陸から台湾へ渡った外省人の焦りと不安。何かを強く明確に打ち出してる訳ではないがそこに生きる人々の気持ちや人物像がショットの積み重ねで伝わってくる。

事件は諦めにも似た変えられない空気への反発心か、いつだって社会は不公平と語るように大人達の不安が感化されやすい子供たちの社会にも影響していく。世話をしてくれた汪を始め派閥を作り線引きし壁を作り安心したいのだろう。夜間部の学生たち小公園と二一七を中心とした縄張り争いはほぼ抗争だが優劣をつけたがる社会全体の風潮が子供社会にも色濃く表れてる。
背伸びしたい年頃でもあるし思春期の脆さ危なさにドキドキする。ハニー不在に頭角を表す滑頭は丸くなり威勢の良い子猫王リトルプレスリーは歌でほんの一握りの夢を掴む、山東への報復、暴力だけじゃなくそれぞれの人生がある。登場自体は少ないが怖さと誠実さが語られる人物像でハニーもしっかり印象を残してる。日本刀持ちの転校生の小馬も恩着せがましいが友人思い。
ハニーの彼女だった小明を巡る恋模様や友情恋愛に青春の爽やかさを感じる。周りの木々や田畑に囲まれた田舎の風景、撮影スタジオ等をバックに印象的なショットにも依る所もあるのかな。
空だと思ったら実弾でビックリした小明や小四と原っぱで自転車を押すシーンも印象的。

守るはずなのに抑えきれない疑心暗鬼や焦燥感が凶行へと走らせたと思うが家族しかいないと二人して泣く夫婦、弟思いの姉、敏感になる妹、後半は家族を見守るような気持ちで観てた。公務員の父へ執拗な尋問も酷かった。最初に尋問してた人はプロデューサーのユー・ウェイエンのようだ。

日本家屋に板張りの床の和洋折衷な家、ラジオにジェームス・ディーンやエルヴィスに触発された若者、ライブハウス、パッケージされた時代感がノスタルジック。その暮らしの中に演習場や戦車が当たり前のように溶け込んでる。
淡々と重ねてるようになのに感覚は強烈で何とも言語化しにくい部分はあるが、観る度に咀嚼して自分の中で評価の上がっていく作品なのかな。

The Fleetwoods版か「Mr.Blue」が心地良い。
field

field