このレビューはネタバレを含みます
映画の説明は省略させてもらう。
夫のトロイは屁理屈と言い訳の山だったよ。
夫のトロイ(デンゼル・ワシントン)の身勝手で自己中心的な言い草は、聞いていて呆れたよ。
妻のローズ(ヴィオラ・デイヴィス)の反論は本当にごもっともだった。
全てを自分の都合の良いように話せる方法として、トロイは自分が夢を追っていた頃の野球に例えて話す。
ローズがやめてくれと頼んでも、なお、野球に例えて話し、結局は自分の都合の良い結論へと持っていく。
クズ男の典型であろう。
だが、世の中、トロイのような男が大半を占めているというのが、不都合な真実なのであろうな。
自分の稼ぎが極端に少なく、妻や子どもたちに苦労ばかりかけ、それにも関わらず愛人まで作り、愛人に子どもまで生ませ、それでも偉そうに上から目線で、妻ローズに全てを与えてきたと主張し、説教を垂れる男。
嘘だらけの男。
どこまでクズ男なのか、と私は普通に思ったよ。
「生まれた時から2ストライクの男に、どうしろというのか」
クズの言い訳でしかなかろう。
私の父は、立派な人だったよ。
トロイの言葉を引用するならば、それこそ私の父は生まれた時から手脚を縛られた状態でバッターボックスに立たされていたような人生だ。
父は15歳で新潟から名古屋へ出稼ぎに出て、大工一本で兄弟姉妹と母親の生活費を稼ぎ、仕送りをした。
いずれ結婚し、私が生まれた。
ゆえに、私は貧乏な家庭で育ったよ。
だが、父が言い訳を言った記憶は一度もないよ。
私は自分が貧乏だと感じたこともなかったよ。
貧乏だと気付いたのは、大学へ行く金が無いことを知った時だ。
だから、私は日に7時間、工場でバイトをし、日本育英会から多額の借金をして大学を卒業した。
私はサラリーマンになり、後に起業し、高級車を何台も買って乗り回し、贅沢三昧な日々を送っていたが、それでも父は最後まで大工一筋で生き、そして死んだよ。
私は今でも父を心から尊敬している。
一度も言い訳せず、自分が出来る精一杯の努力をして死んで行った。
私はこう思うよ。
我が家は貧乏だったが、心は豊かであったな、と。
この映画では、トロイはクズだが、ローズはまるで女神のような妻だと私は思うよ。
人間は言い訳をし始めると際限がなくなるものだ。
自分の人生、間違っていない。
自分は悪く無い。
自分は生まれた時からツーストライクだったのだから。
ならば、何度も何度もアウトになって、何度も何度もバッターボックスに立てばよかろう。
自分にいくら言い訳をしたところで、何の意味もありはしない。
言い訳の先に待っているものは、虚しい人生だけであろうな。
この映画は、そういう映画だったよ。
言い訳三昧、屁理屈三昧だったので、デンゼル・ワシントンのセリフが、それはそれはダラダラと長くて多かったよ。
おそらく、それがダメ男のキャラクターを演出する手法だったのであろうが、その手法は効果覿面であったと私は思うよ。
私は思う。
子どもはいつも、父親の背中を見ている。
そして、妻もまた、夫の背中を見ている。
偉そうに子どもや妻に説教できるほどには自分が立派な人間でないことを、いつ悟れるか、だけであろうと私は思うよ。
妻がいなければ、自分は所詮、弱い男であるという現実。
妻や子どもたちは自分の所有物ではないという現実。
自分は生き様以外に何も与えられるものなど有りはしないという現実。
この映画の中のトロイは最後までクズ男だった。
息子に自分の頭をバットで殴らせようとするほどのクズなトロイ。
この映画は、反面教師として大いに役に立つ教材だと私は思うよ。
トロイのふり見て我がふりを直すためにね。
3連続三振をした後に特大ホームランを打ったトロイの勇姿を良く覚えている長男のライオンズ。
「父さんは特別だったんだ」と目を輝かせて義理の弟に話すライオンズ。
クズ男な父親だが、息子はその父親の背中を見て育ち、父親の勇姿を熱く語るものなのだろう。
だが、次男はクズな父親しか知らず、トロイは自分の人生を次男に穴埋めさせようとしたために、トロイが死んだ後も、父親の葬儀出席さえ拒んだ。
そして、死んだ夫を最後まで擁護し、全て自分が選んだ人生だと主張する妻ローズ。
愛人が産んだ女の子まで愛し、持てる全てをその子に与えてゆくと言う母ローズ。
妻と長男は、トロイがまだ立派な野球選手だったころの生き様を知っており、次男はクズ男であるトロイしか知らない。
そして、最後には、これほどまでの差が生まれて終わる。
実に面白かったよ。
単なる「普通の家族」を映画化しただけだが、あえて主人公を極端なクズ人間のまま終わらせたところに意味があると私は思うよ。
どうやら原作が戯曲だそうなので、極端で偏った演出やセリフは、そのせいなのであろうと思う。
以上だな。