Fitzcarraldo

フェンスのFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

フェンス(2016年製作の映画)
2.0
アメリカのブラックシェイクスピアと呼ばれたオーガスト・ウィルソンの戯曲“Fences”が原作。

1990年代の米国で彼の戯曲は最も多く上演され、二度のピュリツァー賞をはじめ数々の演劇賞を受賞するなど現代米国演劇を大きく変革した偉大な劇作家である。

彼が四半世紀をかけて完成させた戯曲は「ピッツバーグ・サイクル」と呼ばれ、それは一作をのぞく他の作品がペンシルベニア州ピッツバーグ市のブラック・ゲットー、ヒル地区を舞台としていて、画期的なのは人物の再登場もあれば、ある作品に登場した人物の子どもが、別の作品に登場するというクロスオーバーをもつ点であろう。また地で暮らすアフリカ系アメリカ人の視点から人びとがいかに20世紀を生きたかを描いているので、アメリカの20世紀の年代記ともいえよう。

さて、本作の映画化は以前から持ち上がっていたようだが、原作者のオーガスト・ウィルソンが黒人監督でなければならないという御誓文を出し2005年に他界してしまい映画化の計画は頓挫し続けていた。

2010年“Fences”のブロードウェイ興業でプロデューサーをしたスコット・ルーディンと主演を務めたデンゼル・ワシントンが、2016年に本格的に映画化に着手。
デンゼル・ワシントンは原作に忠実な演出を心がけており、
「この映画の肝は脚本とウィルソンが紡いだ言葉にあります」
「脚本にあるウィルソンの言葉から導けること以外の行動をしないで下さい。何をするにしても、貴方たちがやるべきことを教えてくれるのはウィルソンの言葉です。私たちが守らなければいけないのはこれだけです」と製作スタッフに語っていたという。

ブロードウェイ上演時のキャストをまた集めることによりチームとしての結束は十二分だし、公演当時に稽古は散々っぱらやっただろうから色んな事を試し終わってるだろうし、演出面では確かに原作を変質することなく、映像化できているとは思う。

ただそれが、原作に忠実だから、映画としても良き作品になっているかというと甚だ微妙だ。映画は、やはり映画としての特性を使うべきだし、それを生かすべきだと思う。
よくBSやWOWOWで舞台公演を何カメかで撮影して編集したものを放送しているが、本作はそれらと同等。

舞台そのものは面白いのかもしれないが、その場の空気・雰囲気を全く感じない演劇をテレビで見ても、いまいちピンとこない。いつも最後まで見てられなくなり、途中で消してしまう。
やはり舞台は生ものだから、生で見るべきもので、それを映像化したところで意味が変わってくるのではないだろうか…。だってそうだろう?!編集者の生理でカット割りしてんだから。それは舞台の演出者の狙いではないのだから。

わざわざ映画化するなら、物語のエッセンスを蒸留して映画として抽出し熟成させなくてはならない。

ただ物語としては興味深いので、原作は読みたいと思う。
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