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フェンスのmjnkのネタバレレビュー・内容・結末

フェンス(2016年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

2019/06 CS録画。1950年代、公民権運動が盛んになり始めたアメリカで暮らす黒人一家の話。ストーリーは基本的に家の裏庭で交わされる会話だけで進みます。何故…と思ったら元はピューリッツァー賞を取った戯曲なんですね。これまで舞台で演じられてきた「偉大な物語」を映画化するに当たり、それを「壊さないように」した結果、「映画的表現」を見失ってしまった、という感じ…?

内容に関しては「無茶苦茶過ぎるよ親父さん…」と言いたい。

前半はまだ分かる。
子には堅実に生きて欲しいという気持ちや、自分の経験した事を経験させないために自分の考えを押し付けようとする不器用さも分からなくはない。なんだかんだ愛ゆえでしょうねと思う。ウザいけど。

でも後半はダメ。
会話だけで進む演出が、父のクズっぷりだけを際立たせているように見えます。

いつの間にか人生の修正が出来なくなってしまっていて、こういうふうにしか生きられないんだ、という事は、誰しも大なり小なりあるかもしれません。そこは理解できます。差別や貧困が彼の人生にもたらしたものの影響もあるでしょう。

閉塞感を感じていてそこから逃れるように浮気をしました。という「流れ」も会話から分かるのですが、心の動きが見えてこないため、身勝手なだけにしか見えない。それに、会話で事実だけを並べると「そんな事をしても自分の首を絞めるだけだろう」と思ってしまいます。例えばもし娘の母親が生きていたら、この先どう暮らすつもりだったのか。今以上の閉塞感に襲われる未来しか浮かばないのですが…。
これを「不器用さ」という言葉だけで片付けるのはモヤっとする。息子たちにはあんなに「堅実な生き方」を求めたのに。

また息子を「道端のニガー」呼ばわりするのもしんどいです。白人にされた差別を息子にし返す。この負の連鎖こそが重要なのかもしれませんが、ここまでさんざん会話だけで畳み掛けられていてあのシーンでは、横暴過ぎて受け入れ難いです。


黒人と白人の間にある"フェンス"。それをきっかけに彼の心に生まれた頑なさもまた"フェンス"。彼なりに家族を守ろうと作ったものも"フェンス"。その結果、家族との間に生まれたのもまた"フェンス"。

それらの"フェンス"は、彼自身の死と家族の愛、そして彼の弟(国の為に戦い知的に問題を負った、主人公以上の「弱者」であり、聖域である者)の吹いたトランペットの音で解き放たれたのでした…。

という事だと思うし、恐らくラストは公民権運動の夜明けを予感させている(重ねている)のでしょうけれど…。
映画としては日本劇場未公開も致し方なしとしか思えません。

舞台だと、例えば娘が生まれた時のデビル云々の叫びとかハイライトの1つになりそうです。観客とひとつの空間を共有する生の舞台での、圧巻の会話劇からの心の叫び。そこで暗転して休憩にでも入ればぐっとくるかもしれません。
しかし映画ではお喋りで身勝手な男が妻を理不尽に部屋から追い出して急に荒ぶったようにしか見えなかったです。
そう考えると「映画として」もっとやりようがあったのではと思います。
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