山田

フェンスの山田のネタバレレビュー・内容・結末

フェンス(2016年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

主人公が果てしなく最低な人間、どこがクズかというと~、と書きたくなるところだけどそんなことは分かるように演出されているから大切なのはそこではないのでそれは書かない。
それよりも彼がなぜ妻と息子に対してモノ扱いし、大切に出来なかったのか、ストーリーのなかで答えが明確に出されるわけではないので自分自身汲み取れているか分からないけどヒントが沢山あったように感じた。
一つめは、人種差別。主人公は野球がプロの世界でも上手いのにメジャーに行けなくて、ゴミ収集車のごみ集めの仕事をしている。黒人は運転手になれないから。そして主人公は、黒人でありながら、自分の息子に向かって黒人に対する蔑称を投げつける。
恐らく自分も沢山言われて生きてきたはず。
与えられて生きてきたものを息子に与えてしまっているのだと思った。

二つ目はジェンダロールによるマッチョイズム。
男は強く、男は妻と子供と家を持つべき。
男は泣くべからず。女は男に従うべき。
こういったジェンダロールが世界に定着しているため、主人公は強い自分を演じたのだと思う。「そして本当の自分とのギャップに苦しむ。本当は弱音もはきたい、本当は社会的弱者であると知っているのに強いふりは苦しい、そして本来なら自分が黒人じゃなかったのなら野球の世界で活躍していた。」主人公の台詞や経歴をみていると、こう感じたんじゃないかと思った。
それゆえに、主人公は不倫した。

人種差別とジェンダロールの無い社会だったら主人公は全く違う人生を送っていて、全く違う振る舞いを家族にしていたんじゃないかと思った。

この作品のなかで、主人公の妻が芯の強い人に感じた。「自分が夫の妻として生きた事は自分で選んだ道、そうせざるを得なかった訳ではない。違う生き方もしようと思えばあった、だけどこの人生を自分で選んだ。」と自分の人生を自分で責任持つというのは中々できることではないと思う。
夫の不倫に対しても怒りの姿勢を崩さず、夫と不倫相手の子供には責任無いと言って愛情を注いで育てる。
そのあと夫とどのような関係になったかはよく分からないけど、夫の葬式の日に夫の事を理解して「正しくはなかったのかもしれないけど私たちを愛していたのは真実」と言っていたので、全てをなし崩しにせず正面から受け入れて怒りもぶつけて愛する決心をしたのだと感じた。
山田

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