Tai

ムーンライトのTaiのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
3.9
多くの言葉は無く、しかし確実に訴えてくる作品。

本編開始早々に感じたことはカメラワークが非常に興味深いということでした。
危険地区でヤクの売人とそのボスの何気無い会話をワンカットで、不安定に2人を中心に回りながら映すというだけで、色々な意味でのその場の危険さを感じます。
カメラの動き、照明、音声の加工に有無の演出と主人公シャロンの感じているものを感覚的に訴えてくるテクニックに舌を巻きっぱなしでした。

伝わるからこそ、シャロンの境遇が辛くて仕方なくなります。
学校ではイジメられ、家でも居場所を感じることができない。
様々な理由が違えど、日本でも十分にありえる話です。
子供から大人にかけてのシャロンの目が印象的ですが、自分を徹底的に否定され自己が崩れてしまった人の目を嫌な程表現できていたと思います。
もう決して純粋なんかじゃない。
一度、他者との距離感がわからなくなってしまったら、例えその後にコミュニケーションを取れるようになっても、もう自然にはできなくなってしまう。
捻れて捻れて千切れてしまいそうな針金のようなシャロンの幸せを願わざるをえません。

イジメも差別も迫害も、根っこは同じ他者の存在を否定するということ。
子供から大人まで万国共通で起きるこの問題をこれでもかと形にした今作は確かに評価が高いのが頷けます。
しかし、もう一歩踏み込んだラストを観てみたかったですね。

予告編で言っている「一途な愛」とか「愛の物語」という言葉が今作に当てはまるのかと考えると首を傾げざるをえませんでした。
Tai

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