かわさき

ムーンライトのかわさきのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.6

 2015年にリリースされた、ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』はエンターテイメントだろうか?答えはイエスだ。フランク・オーシャンによる『Blonde』はどうだろう?もちろん、エンターテイメントだ。

 では本作『ムーンライト』は?やはり、揺るぎなきエンターテイメントである。少年期、思春期、青年期に章分けされ、現代社会の影の部分を美しく映し出してゆく。その危うさと脆さをそのまま主人公の「シャロン」を通して具体化した演出と脚本は見事だが、特筆すべきは何よりもカメラワークの巧みさ。ライブの臨場感と映画の耽美性を折衷したようなニュアンスである。会話劇の周りをグルグル回りながら撮影したスペクタルな画と、固定カメラで撮ったミニマルな映像。これらをシーンによって使い分けており、制作陣の飛びぬけたセンスが窺える。動と静のバランスが絶妙で、それがシャロンの危うさを表現しているようで舌を巻いた。特に青年期に母親に会いに行くシーンは圧巻の一言。会話で母親が置かれている状況を匂わせておいて、最後に映像で語りきる。このスリリングさよ。これがエンターテイメントでなくて何がエンターテイメントなのか?

 繰り返しになるが、主人公のシャロンは記号的存在だ。現代社会の闇をその一身に集約させた記号。それがあまりにも同時代的で、あまりにもクリティカルであった。本作がアカデミー賞を受賞したことには何の異論もない。『To Pimp a Butterfly』や『Blonde』が歴史に名を残す傑作であるように、この映画もまた僕らの時代の金字塔である。
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