むーしゅ

ムーンライトのむーしゅのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
3.4
 見ようとおもって見れていないシリーズから観賞。監督のBarry Jenkinsと原作となった戯曲を書いたTarell Alvin McCraneyは同じ公団住宅で育ち、年齢も1つ違いなのですが、当時はお互いを知らなかったそう。ちなみにどちらも母親が麻薬中毒者という共通点もあり、人生ってすごいもんですね。

・主人公シャロンの半生の記録
 本作は主人公シャロンの人生に沿って三部構成となっています。人と違うことでいじめられ、ひょんなことから出会った近所に住む麻薬の売人フアンと仲良くなる幼少期の第一部、幼なじみのケヴィンに密かに恋心を抱く高校生の第二部、そして大人となった第三部。台詞は少なく淡々と流れていきますが、これはもう大河ドラマですね。各部それぞれは短いのに濃縮されていて、何故か彼のことをよく知っているような気がしてしまいます。また一部はリトル、二部はシャロン、三部はブラックと、そのときの呼び名がタイトルになっているのですが、二部があえて本名であるところも興味深いですね。物事が理解できていなかったリトル、知りすぎてしまったブラックと違い、一番自分に正直に生きていたのは下を向いて歩いていた二部だったのかもれしません。

・同じ軸を生きているようなキャスティング
 そんな大河ドラマ感を支えたのはこの三部構成をそれぞれの時代で支えた三人の役者です。監督が同じフィーリングを持つ役者を探したという三人の役者はまさに同じ人物の人生軸に存在しているようにしか見えない不思議な世界観。ポスターがそれを物語っていますが、三人の顔が似ていないのに似て見えてくるんです。特に三部を演じたTrevante Rhodesは見た目が完全にゴリラになっているにも関わらず、二部時代の人をまともに直視出来ない雰囲気を見事に引き継いでいて、正直、気持ち悪いって思ってしまうほど。ただ問題は相手役のケヴィンにはそれが全然感じられないんですよね。一部と二部のギャップも中々でしたが、三部になったらお前誰やのレベルで、それまで知っていたケヴィンはどこかへ行ってしまいましたね。

・テーマを詰め込み消化せず
 さて本作は、麻薬、母子家庭、黒人、同性愛などなど、現代社会に存在する様々な問題をふんだんに盛り込んでいます。しかし、その割にはどのテーマにも深く踏み込まないまま物語を終わるんですね。作品全体に流れるゆったりした雰囲気と、様々なライティングによりその時々に色を変える美しい映像により、アート映画的側面は強いものの、せっかくのテーマは列挙しただけ。綺麗だな以外の感想を求められていないかのような、ゆるい終わり方に物足りなさを感じました。終盤Barbara Lewisの「Hello Stranger」がかかった瞬間以降はもう声出したら負けみたいな、そういう意味ではだいぶこの曲に助けられている気がします。誰やねんケヴィンの思いは全部この曲から理解しろと言われているかのようでした。

 本作は第89回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞を受賞しましたが、助演男優賞はわかるものの作品賞、脚色賞に関しては正直納得いかずですね。ただこの年は他の年に比べ、個人的に非常に不作年だったので仕方ないとは思いつつ「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」が無冠に終わるのは意外だなぁと本作を見て思いました。
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