糸くず

ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章の糸くずのレビュー・感想・評価

3.8
王道かつカルト的であるジャンプ漫画と「よくできた実写化」の間に奇妙な壁がある。

『ジョジョ』が映画化されると聞いた時、「いくら三池でもこれは負け戦だろうから、いかに派手に負けるかで勝負するしかないのでは」と思っていたものだから、万人受けする超能力バトル不良青春映画としてほとんど完璧に仕上げたことにびっくりしてしまったのだ。

そもそも荒木飛呂彦先生は超一流のストーリーテラーであって、原作通りに映画化すれば面白くなるに決まっているのである。この第1章では、片桐安十郎(アンジェロ)、虹村兄弟との闘いが描かれている。アンジェロとの闘いでは、仗助のスタンドの傷を治す力にも限界があり、どんなスタンドでも一度失われた命は二度と戻らないことが示される。一方、虹村兄弟との闘いでは、永遠に死ぬこともなく人間としての姿を失ったままただ生き続ける存在が現れる。そのことで、「命は失われてしまうからこそ尊い」という逆説を説いている。この対比の上手さは見事としか言いようがない。

不安要素だったビジュアルも問題なく、コスプレに陥ってはいない。仗助(山崎賢人)の激情、アンジェロ(山田孝之)の無情、億泰(新田真剣佑)の純情、形兆(岡田将生)の冷徹。それぞれが「杜王町」という空間に溶け込み、生き生きと動いている。スタンドでの戦闘シーンのクオリティも申し分ないし、三池印のバイオレンス描写も刻み込まれている。

するべきことをきちんとした実写化である。本来ならば、これ以上望むものは何もないはずだ。しかし、もやもやが残る。これを言葉にするのは難しい。

『ジョジョの奇妙な冒険』は大ヒット漫画である。そして、「努力・友情・勝利」を兼ね備えた王道のジャンプ漫画である。しかし、『北斗の拳』や『ONE PIECE』のような「王道の中の王道」とは違う。「王道の中のカルト」という言い方がふさわしいのではないかと思う。癖のある絵、独特の擬音、緻密な物語の展開。「万人に愛される」というより、「人がどう言おうと、わたしは好き」と言いたくなる漫画。それが『ジョジョ』だ。

困ったことに、実写化として堅実で親しみやすいものであればあるほど、『ジョジョ』のこの独特の立ち位置がもたらす魅力が削ぎ落とされてしまう。だからといって、明らかにカルト映画として作ることは、東宝とワーナーによる超ビッグプロジェクトであるがゆえに無理な話である。ビジネスとしてのしがらみを抜きにしても、一つの映画では終われない長い物語であるため、たった一発の盛大な打ち上げ花火として逃げ切ることもまたファンへの裏切りだ。

やはりいくら三池崇史といえども、『ジョジョ』の実写化は途方もない困難だったのだと思う。わたしは、三池崇史に罪があるとは思えない。誰がやっても負け戦にしかならない挑戦だったのだと思う。
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