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女神の見えざる手のumisodachiのネタバレレビュー・内容・結末

女神の見えざる手(2016年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

銃規制派のために邁進するロビイストを描いた作品。文句なしに面白かった!!

タイプは違うのだが、ラストでここまで「やられた!」と思ったのは、『シックスセンス』『ユージュアル・サスぺクツ』以来かもしれない。

主人公である超有能ロビイストのエリザベス・スローンは、銃規制反対派の依頼を鼻で笑って断り、銃規制推進派の小さい会社に転職する。

スローンは勝利を掴み取るためには手段を択ばないタイプで、法的には完全にアウトな手法も使うし、必要とあらば部下も騙す。他人の気持ちを丸無視して傷つけることもある。そして、本人は孤独だ。

これだけ見ると、よくある【仕事ができる女】の典型のような感じもするだろう。『プラダを着た悪魔』の編集長とかね。しかし、この映画はそれでは終わらない。

スローンの活躍に恐れをなした銃規制反対派は、スローンのプライベートを暴く個人攻撃に出る。部下に関する大事件も起こってしまい、さすがのスローンも絶体絶命…!

ストーリーとしてはこういう展開だ。

ここまでくると、大抵の映画の展開は決まってくる。例えば、【実はスローンには未成年のときに生んだ子供がいて、その子を銃で亡くしている】なーんていうお涙頂戴な過去のエピソードが露呈するとかね。

「ああ、実は彼女は冷酷な人間じゃなかったのね。過去がそうさせたのね」

と観客に思わせて、最後はスローンの感動的な演説で聴衆が一気に寝返る。みたいな。

でも、『女神の見えざる手』で待ち受けているラストの展開は、そんな陳腐なものではない。もっとずっとスタイリッシュで、もっとずっとグッとくる。

冒頭から終盤まで徹底的に貫かれるスピード感も本作の魅力なのだが、そのままの勢いで一気にスパークするラスト展開は最高の一言。絶対に経験するべき。

『女神の見えざる手』は、敢えて言えば『アクロイド殺し』(アガサ・クリスティ)に似ている。

観客は主人公の動きに沿って映画を観ているのだが、実は主人公は並行して全く別の行動もとっていて、それは完全に隠されている。大抵の映画で観客は主人公の共犯となるのだが、本作では100%観客も騙される側に回される。

これは、主人公自体も真実を認識していない『シックスセンス』や、主人公の言葉のどこまでが真実か知りえない『ユージュアル・サスぺクツ』とは別のタイプのどんでん返しだと言えるだろう。

また、カズオ・イシグロの作品にあるような「嘘をつく記憶」とも本質的に異なる。主人公は、完全に騙すつもりで行動しているわけで、ミステリーとして考えると、ぶっちゃけ反則なのだ。

前述した『アクロイド殺し』、それよりも以前に発表されている谷崎純一郎の短篇小説『私』と同じ手法なわけだが、物語の話法の禁じ手といってもいいアクロバティックなやりかたなので、よっぽど上手く構成しないと受け手にカタルシスは生まれない。

『女神の見えざる手』に観客(というか、私)がここまで興奮したのは、この"反則"を最大限に生かす巧み過ぎる脚本があったから。そして、スローンを演じるジェシカ・チャスティンが問答無用でカッコよかったからだ。

結局、スローンの過去などには何も言及がなかった。有能な女キャラには、とかくロマンスやセンチメンタルな描写ばかり付随することにウンザリしていたそこのあなた!『女神の見えざる手』でスッキリしましょう!



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