ゑぎ

この手紙を読むときはのゑぎのレビュー・感想・評価

この手紙を読むときは(1953年製作の映画)
3.5
 クレジットバックは夜の浜辺。この後、クレジット開けは、港を見下ろす高台のショットで、左にパンし、修道院の尖塔の鐘を映すエスタブリッシング・ショットだ。この時点で、クレジットバックの浜辺は何だったんだろうと思うが、しばらく忘れていると、終盤の重要な場面で、この背景が登場し、あゝ冒頭の浜辺は、フラッシュ・フォーワードだったのだと得心する。このような劇的な見せ方が、メルヴィルは矢張り上手い。

 主人公・ヒロインはジュリエット・グレコで、修道女だったが、父母の事故死を契機に残された妹の元へ戻る女性。妹はイレーヌ・ガルター。父母が残した文房具店を引き継いでいる。この二人に、女たらしでヤクザ者のフィリップ・ルメール=マックスがまとわりつく、というのが主軸のプロット展開だが、前半は、マックスの行動(ホテルの有閑夫人イレーヌをたらしこむ手管)が、パラレルにカッティングされる。そして、中盤から姉妹とマックスが交錯するようになると、全く予期せぬプロット展開を見せるのだ。彼らの行動レベルでも、感情レベルでも、普通の展開ではない。それも何度もだ。例えば、姉がマックスを銃で脅して妹と結婚するように云う場面。さらに、妹が結婚を喜ぶという展開。他にも驚かされる展開はいくつもあるのだが、これ以上書くのは控えよう。若干、ひねくり過ぎではないか、と思えるほどだ。

 ホテルを出て、港の道を歩く妹のイレーヌ・ガルター。その背景でカモメが舞うカットの不穏な造型等、南仏カンヌを舞台として陰々鬱々たる映像を提示するカメラ(アンリ・アルカン)も、われわれの先入観を覆す。
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