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アンダー・ザ・シルバーレイクの消費者のレビュー・感想・評価

3.9
・ジャンル
サスペンス/ミステリー/ドラマ

・あらすじ
犬殺しの相次ぐLAの町、シルバーレイク
その地で定職にも就かず家賃を滞納しながらフラフラとしていたサム
彼は暮らしているアパートでそれまで見かけて来なかったサラという美女と出会う
間も無く2人は親しくなり翌日も会う事に
しかし約束の時間に彼女の部屋を訪ねるとそこはもぬけの殻
大家によれば深夜に引っ越したのだという
違和感を抱いたサムは密かにサラの部屋へと侵入
消えた理由の手掛かりを探しているとそこに1人の女性が現れ、サラの残した荷物を持ち去っていく
彼はそのまま女性を尾行、やがて女性は2人の女性と落ち合い様々な場所を巡っていく
そうこうしている内にサムはテレビの報道で信じられない物を目にする
失踪後に車ごと焼き殺された富豪と共に死んだ3人の娼婦の内の1人の遺品である帽子がサラの物と同じだったのだ
徐々に浮かび上がっていく謎を追う内、サムはシルバーレイクの街に隠された数多の奇妙な陰謀へと辿り着き…

・感想
無職の妄想癖の男が死んだと思われる一目惚れした女性に隠された謎を追っていく、というのが大筋のストーリー
しかしあまりにも荒唐無稽な展開が繰り返されそれらが奇妙な繋がりを持っていくので取り留めのない夢を見せられている様な感覚だった

そんな中で感じ取れるのは人生を脱落したと感じている主人公サムの心理が幻覚と妄想という形で投影されているのではないかという事
そう捉えると本作はかなり風刺的な内容に思えてくる
社会から阻害された感覚を持ちながらも他者の視線に嫌悪感を抱く彼の人物像
行く先々で出会う謎の多い人物達
意味深に読み解かれていく暗号
富裕層達のカルト的儀式…
それらは一見すると単なる統合失調症による妄想に見える

だがその裏ではいわゆるパラソーシャルな人間関係や広告にまみれた社会の病理、自慰行為やセフレ及びコールガールの象徴するインスタントな快楽など現代人を取り囲む歪な世界観を描いているのではないか
自分の人生を生きていても主人公にはなれずモブの様に生きる事を余儀なくされてしまう悲劇というのはネット以降は特にありふれた物となってしまっている
その中で妄想へと逃避する事で“真実”を獲得し主人公になろうともがく
この思考の過程は昨今、流行病の様に蔓延している陰謀論を盲信する人々に重なる
そう考えると“ソングライター”の「君宛てのメッセージではない」という言葉が深みを増してきてなかなか面白い

物事に意味を見出す事で人は人生から振るい落とされない様にもがく
これは正常であれ異常であれ誰もに身に付いている習性の様な物
その目線がひとたび自己から社会へと向いていくと行き過ぎた時に文明の生み出した虚構によってがんじがらめになってしまう
そんな事を個人的には考えさせられた
そこからの解放を求めているのが全てを手にした富裕層というのも興味深い

と、ここまで思考を巡らせて書いてはきたものの「それにしたって長ぇよ!」とも感じた…w
でもその長さもまた無数の広告やコンテンツに人生に主導権を握られている現代人の日常を切り取った物としては巧いのかも
とにかく不思議な映画だった
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