mmk34

ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣のmmk34のレビュー・感想・評価

4.6
セルゲイ・ポルーニン、信じられないほどきれい。同じ振付けで踊っているのに、小さい頃から、1人だけ本当に光り輝いてる…。手の動き、ジャンプ、着地、その角度も形も、全ての瞬間の全ての動作が、美しすぎて、目が釘付けになってしまう。これが才能というものか…と胸がドキドキした。

プロを目指すバレリーナの人って、小さい時から人生の大半の時間を練習に捧げて、もうこれ以上努力出来ないって所まで自分を追い込んでもまだ足りないってくらいストイックなイメージがあって、きっと出演していたロイヤルバレエ団の友人達だって、ものっ凄い人達で、雲の上の上の上の、目指して目指せるような人達でないんだろうはずなのに、その人達の追随すら、全く許さない圧倒的才能。ど素人が見てもその差は歴然としていた。もはや神々しい。

セルゲイの才能とエネルギーは型にはまった伝統的で格式高い英国ロイヤルバレエ団の枠にも、”バレエ”という枠にも収まり切らず、まるで人間の限りある身体に閉じ込められてしまった魔物かの様に、狭い何かの中で窮屈さと憤りに悲鳴を上げ、暴れ、戦い、ドラックに溺れ、疲れ果て、自分を失い、最後の最後の方で、バレエから離れて枠に囚われないダンスを始める事で、やっと自由を手にする…。流れ的にはそんな感じなんだけど。…私だけだろうか…。上品で窮屈なバレエという枠の中に、さながらトウシューズの中に詰め込まれ血まみれになった足先の様な勢いで閉じ込められ、悲鳴を上げながらも、型にはまった同じ振付けを、来る日も来る日も狂ったように踊っていた頃のポルーニンが、一番美しいと感じてしまったのは。

精神はきっと後半に向かうにつれて自由になって行ったのかと思うし、やっと彼が一度立ち止まって、自分の意思で他の挑戦をしようと決心して作った、あのTake me to charchの映像や構成は、めちゃ美しいなと思ったけれど、私の中で神がかった魅力を放っていたのは、やはり前半の方のポルーニンだった。
本人には迷惑極まりない話だろうけど、あの刹那的で、痛々しくて、燃え盛るあの感じに、半端じゃなく胸を打たれて美しさを感じた。

ゴッホにしても、ベートーヴェンにしても、このセルゲイさんにしても、常軌を逸した美しさを生み出す人達って、人としての一般的に言う、平凡で平坦でほのぼのとした日々とはあまり縁がなく、まさに苦悩と茨の道の中で、その神がかった美しさを命を燃やして練り上げるって感じの定めなのかもしれないなと思う。こういう特別な人っていうのが本当に居るんだなあ…と、漠然と理解した。

でも、アートとしてはそれで良くても、言うても彼らはまず何より人間なので、できればセルゲイさんにはもっと、温かくて優しい幸せな日々が訪れて欲しいなあとも、矛盾しつつも思っていた。

とにかくこの人は天才。天が与えた才能。この一言に尽きますね。
本当に美しいし、ぜひみんなに観てほしい。
mmk34

mmk34