ベルサイユ製麺

ある決闘 セントヘレナの掟のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

3.4
物語の前提として
→1849年、アメリカがメキシコに戦争を仕掛ける形でテキサスを奪取。リオ・グランデ川を国境にして先住民やメキシコ人VS白人入植者の衝突が何十年も続きます(衝突の解決策の一例としてヘレナ式決闘:1対1でお互いの手首を布などで結び殺し合いで決着する、ローションをかぶって相撲をとる←嘘、ストップウォッチをぴったりで止める←これも、等)。州内の秩序の維持の為に、独自の法を持って正義を行使する組織として、サニーデー・サービスが←嘘、チームしゃち←これも、 テキサスレンジャーが生まれます。

物語
→入植者グループのアブラハム(ウディ・ハレルソン)との決闘で父を殺されたデヴィッド(リアム・ヘムズワース)は、20年以上を経て今はテキサスレンジャーに。州知事の命を受け、数々のメキシコ人の殺害への関与が疑われるある街の調査に向かうことになります。白人だけで構成される街マウント・ハーモン。街を支配するのは、数々の人間離れした噂を持つ伝説の男“説教師”エイブラハム・ブラント。父の仇の、あの男です!

わたくし映画の古典の勉強をサボりっぱなしで、西部劇のなんたるかがサッパリなのです。なので、あくまで感覚的なものに過ぎませんが、相当に渋いっスよこれ!
前半は図式的には潜入捜査物っぽい感じ。正体を隠しマウント・ハーモンに潜り込んだデヴィッドと妻マリソル。彼らを見張るエイブラハムと手下達。「未来が見通せる」と嘯くエイブラハムには、実際デヴィッドの思惑は見抜けているのか?更にエイブラハムと接触してから妻マリソルの様子がおかしい。妻はアイツに魅入られてしまった⁈…みたいな疑心暗鬼で神経をすり減らす展開です。渋い、というか暗いよね…。
住民達の心はエイブラハムに完全に掌握されていて、周りは敵だらけ?重苦しい空気が流れます。…なんとなく田舎の実家の方の事を思い出しましたね。アレはドッグヴィルだったな、マジで。
主人公デヴィッドを演じるはリアム・ヘムズワース。兄クリスとは対照的にやたらシリアスで陰のオーラが漂います(実際はヘムズワース兄弟はみんなド阿呆みたいですが…)。妻マリソルを演じるアリシー・ブラガ。体調を崩しながらも瞳の力を失わない様は荒地のワイルドフラワーといった趣です。美しい。エイブラハム役のウディ・ハレルソンは、いつもの狂犬的キャラクターは封印。髪も眉も剃り落とし、何処か人間離れした雰囲気で、相手を竦ませコントロールします。このウディのムードの良さによって映画の格が数段上がって見えているのは間違いないでしょう。変に暴れたり声を荒げたりしない。そんな事もあって、…スカッとしない!風通し悪い!せめてクライマックスの対決では溜飲を下がるかと思いきや…。
で、個人的にはこの陰鬱なビジランテがバチっと好みだったので楽しめたのですが、人を選ぶ作風なのは間違いないでしょう。監督キーラン・ダーシー=スミスさん、初めて作品を観ますが、実はそもそも役者などをやられていた方みたいで、変にこなれていないところが却って実直に映り好印象でした。今後も監督されるのかな?
散々地味だの暗いの書いてしまいましたが、見過ごせないのが、例えば“白人VSカラード”、“情報統制と恐怖によるコントロール”“カリスマ独裁者”“立法府の長⁇は?”などのモチーフが現在の社会情勢と無関係な筈は無く、一つ一つ細かく紐解いていけば実は『デビルズ・バック・ボーン』スタイルの非常に精密に構成されたメタな作品の様な気もしています。(ま、ド阿呆なのでよく分からないんですけどね☻)この作劇法、時代劇に今の日本の情勢を落とし込む形で再現したらめちゃくちゃ面白そうです!…それか実写でカムイ伝。外伝じゃないからね!