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人生フルーツのKHのレビュー・感想・評価

人生フルーツ(2016年製作の映画)
4.5
シアター・シエマにて

団地が並ぶ高蔵寺ニュータウンの脇に、雑木林に囲まれながらひっそりと建っている津端家の1日から始まる。
次第にこのニュータウンを計画したのは、津端修一であると明かされるが、このニュータウンは彼が初期に構想した計画とは裏腹に、経済優先の当時の日本において合理性を追求した形として完成する。いわば彼の理想に反して生み出してしまったこの街にひっそりと住み続ける津端家に迫るドキュメンタリー。
人としての営みを外部化し便利さと引き換えに豊かさを失ってしまった空虚な時代に、ひっそりと立つ津端家の雑木林に囲まれた30畳一間の平屋の暖かさが、映像を通じて観客に伝わってくる。この様な文脈で現代社会を批判する作品は山ほどあるが、この映画においては津端家の日常を切り取ることで、そのメッセージの説得力を高めている。
個人的には合理性のもと作り出された集合住宅(団地)であったとしても、長い間そこには様々な人の生活や思い混ざり合い集積され1つの文化を作り上げていると思うが。

この映画の1番凄い所は、終始津端家の生活にフォーカスしているだと思う。
例えば孫がシルバニアファミリーを欲しがっていてもプラスチックの家は良くないと、木造で作り上げてしまう頑固さと器用さの両面がよく表現れている。障子を自分で貼り替えたりなど、自分のできることは、時間をかけてでもゆっくりとこなしていく、暮らしの美しさや尊さを感じる。
黄色い看板「アッテンションプリーズ、頭上にご注意を」は可愛すぎるでしょ。

ここからは邪推だけど、この2人のスローライフ生活は国内外問わず数々の集合住宅を生み出してしまった、建築家の反動であり逃避とも言える思う。

大きなメッセージと小さな生活(人間ドラマ)に迫り1つの作品に両存させた稀有なドキュメンタリー作品だなと思った。

ナレーション、音楽が美しかった。
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