MasaichiYaguchi

トマトのしずくのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

トマトのしずく(2012年製作の映画)
3.9
シネコンが主流となっている現在、映画の公開本数は増加の傾向にあって、邦洋画合わせて年間1000本を超えている。
そんな映画業界の潮流とは裏腹に、劇場公開されないままの作品も多々ある。
そのような劇場未公開作品にスポットを当て、“お宝映画”を発掘して一挙上映しようというコンセプトで2011年から毎年開催されている“お蔵出し映画祭”というのがある。
この作品は、昨年その映画祭でグランプリと観客賞をW受賞した映画。
本作では特段、事件や事故が起こることもなく、ある家族に焦点を当て、親子の絆や家族の再出発を心の襞に触れるようなタッチで描いていく。
5年の交際期間を経て入籍したヘアサロンを経営するさくらと真は、近く結婚披露パーティを開催するにあたり、疎遠となっているさくらとその父・辰夫との関係修復と向き合っていく。
この娘と父を演じる小西真奈美さんと石橋蓮司さんが夫々が持ち味を発揮していて魅力的だ。
娘に対して愛情があるのに、口下手で不器用な為に思いを上手く伝えられない辰夫。
心に底では仲直りしたいのに、過去の経緯で父に素直になれないさくら。
そんな2人を何とか取り持とうとする真。
本作には悪人は出てこない。
彼らは夫々が家族の幸せを願っているのに不器用に生きている人々だ。
そんな彼らの家族の幸せを象徴するものとして「トマト」が登場する。
そして不器用なさくらと辰夫の絆の思い出となっているのが「おんぶ
」。
この「トマト」と「おんぶ」に込められた優しい思いが、美しい桜の季節を背景に温もりと共に描かれていく。
ドラマチックで派手な演出も展開もない地味な映画ではあるが、作品の中心にある家族への思いが静かに力強く伝わって来ます。