MasaichiYaguchi

八重子のハミングのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

八重子のハミング(2016年製作の映画)
3.7
佐々部清監督が、陽信孝さんの体験を綴った著作を、升毅さんと高橋洋子さんのW主演で故郷・山口県で撮影して映画化した本作は、4人に1人が65歳以上という超高齢化社会の日本で問題となっている「老老介護」を真正面から取り上げている。
本作の主人公、石崎夫妻に降り掛かった“介護地獄”は、夫が4度のがん手術を受け、妻が若年性アルツハイマ-病を発症したという、双方共に重い病を抱えてのもの。
傍から見たら絶望的で生き地獄状態なのだが、本作ではそのような状況下であっても夫婦仲睦まじく、特に夫・誠吾が妻・八重子の尊厳を守りながら献身的に介護していく姿が描かれていく。
老老介護が社会問題視されるのは、介護によって家族が共倒れしたり、介護疲れによる心中事件や殺人事件が増加していることにある。
この作品は、このような問題に対する解決法を提示している。
それは介護を一人だけで抱え込まないということ。
元教師であった石崎夫妻には、身内の者ばかりだけでなく、地域の人々や元教え子たちが救いの手を差し伸べていく。
山口県萩市という土地柄や人情によるところもあると思うが、一番は石崎夫妻が教師時代にした「情けは人の為ならず」的な行いによるところが大きいように感じる。
そして誠吾が介護について講演会で語る言葉、「“怒り”に限界はあるけれど、“優しさ”には限界はない」ということが、約12年間にも亘る介護を全うした“原動力”ではないかと思う。
老老介護をテーマにした地味な作品ゆえに製作費や宣伝費が集まらず、なかなか製作が進まない中、故郷や周囲の人々の後押しによって作られた本作を佐々部監督は「自主的映画」と呼んでいたが、誰の身の上にも起こる重要なテーマに真摯に向き合ったこの映画は、我々に夫婦愛、家族愛の温もりと共に希望を見せてくれる。