絶対の客人

八重子のハミングの絶対の客人のレビュー・感想・評価

八重子のハミング(2016年製作の映画)
4.7
追悼。佐々部清監督


‪自らも癌を発症しながらも、それと同時期に徐々に症状が表れ始めた妻の若年性アルツハイマーとの4000日に及ぶ闘病生活を記した陽信孝氏の手記を、佐々部清監督が映画化。‬‬‬‬‬


こういう作品というのは、病状をリアルに再現する演技力が求められ、もしそこに少しでも「わざとらしさ」が見えてしまうと、どんなに脚本や演出が素晴らしくても全て台無しになってしまう。

実際、幸いにも自分の親族にアルツハイマーを発症した者はいないので、その演技力がリアルなのかどうなのか、テレビや映画で観たドキュメンタリー映像でしか比較はできない。

しかしそれらと比較しても妻の石崎八重子を演じた高橋洋子さんの演技力は、それが「演技」とはとても思えないほど…そしてそれが、28年ぶりの女優復帰とは思えないほど、観ていて心が痛くなる迫真の演技でした。

夫の石崎誠吾を演じた升毅さんの演技も、恐らくは誰もが憧れるであろう夫婦の理想像を体現した、妻への愛がスクリーンから滲み出た、とにかく素晴らしい演技♪


石崎夫妻の孫を演じていた【そして父になる】で、福山雅治さんの息子を演じていた二宮慶多くんが授業参観で読む家族についての作文…今作のテーマであるその「やさしさ」が詰まった文面と二宮くんの演技にはもう涙、涙…


実は2009年に一度、本原作が大手映画会社と有名監督&有名プロデューサーによって映画化される予定だと原作者の陽信孝氏に連絡があった。

その事を陽氏から聞いていた佐々部監督だったが、それから一年経っても映画化の進行状況が陽氏の耳に全く入ってこない事を知り、疑問を感じて調べてみると、「話が地味」「若い層にウケない」との理由ですでに映画化の話は完全にたち消えていたらしい。

製作が中止になった事よりも、その事を原作者の陽氏に知らせなかったことに憤りを感じた佐々部監督自身が、本作の舞台であり製作地である萩市の市長や、ホームページで協賛金を募って集まった資金を元に、半自主製作で製作開始!

そうした紆余曲折を経て出来上がったのがこの【八重子のハミング】…つまりこの作品は、監督や陽氏含め、製作に携わった全ての人の思いがこもった作品♪

是非多くの人に観て欲しいし、いずれ介護し、介護される不安だらけの老後を迎える全ての人が、今観るべき作品♪


佐々部清監督、素晴らしい映画をありがとうございました。ご冥福をお祈りします。