鹿山

鉱 ARAGANEの鹿山のレビュー・感想・評価

鉱 ARAGANE(2015年製作の映画)
4.4
「観たくて仕方がないのにソフト&配信化しないのは何故!?」と困惑していたが、映画館を訪れてやっと合点がいった。これは映画館という空間で初めて効力を持つ。
ベキキキキィ、ガゴゴゴゴォ、と終始響く工業機械のインダストリアル・サウンド。旋回する車輪やチェーン。閉鎖空間に差し込む外光、ヘッドライト。定点カメラの前で蠢く労働者達が、まるで僕達の現身のようにおもえたのは錯覚じゃあないだろう。僕達も彼等と同様に、暗闇と轟音に身を投じる匿名者であるし、彼等も僕達をじっと観ている(ヘッドライトが視線を実体化させる)。
小田香監督の師範たるタル・ベーラ監督を彷彿とさせるロング・ショットが、時間感覚をぐいぐい引き伸ばしてゆく。しかし緊張感もいっしょに持続されゆく――スクリーンに映された彼等の視線がつねに返ってくるからだ。

「ドキュメンタリー」ってなんだろう。労働者達の事情や行く末を逐一教えてはくれないし、一面的に読める社会的メッセージも訴えてはこない。とある空間にカメラがただそのままどかんと置かれ、それゆえに観る者/観られる者の境界を融和させてしまう。映画初心者の僕がこんなこと言うのも差し出がましいが、まるでリュミエール兄弟の時代の原始的な映画の在り方がそのまま現代に持ち込まれたような、根源的快楽に満ちた一作だとおもった。機会があれば必ずまた足を運ぼう――暗闇と轟音の中に。
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