あーや

鉱 ARAGANEのあーやのネタバレレビュー・内容・結末

鉱 ARAGANE(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ボスニア・ヘルツェゴビナの首都、サラエボにあるタル・ベーラ監督の映画学校で3年間映画を学ばれた小田香監督の「呼応」と「鉱」を観てきました。旧ユーゴ贔屓の私が本作を見逃すわけにはいかないのです。
ところが旧ユーゴやタル・ベーラ監督が云々というより、紛れもないドキュメンタリー映画の新境地を目の当たりにしてしまいました。

1本目の「呼応」は羊たちが美味しそうに草原の草をむしゃむしゃ食べ進んでいくシーンから始まります。その草を食べる音が美味しそうでねぇ、人間の私も生のニラを同じようにむしゃむしゃ食べたくなりました。食べませんけどね。
たぶんボスニア・ヘルツェゴビナの小さな村の日常風景やと思うのですが、澄んだ空気のためか牛さんたちの身体の匂いや動物の丸焼きの匂い、踏まれてゆく草の匂いが画面越しに伝わってきました。
少し小高い場所からの長回しのシーンは、風の音と現地語のお経の声(?)に気持ちがよくなって段々と眠たくなっていきましたが、いきなり人がぞろぞろと小屋から大勢出てきて絵に動きがあったお陰で完全に目が覚めました。
うって変わって儀式のような祭のシーンはとても賑やかです。
大きな遊具はぐるんぐるん回り、村人たちはタバコを喫んだりお酒を飲んだり投げキッスをしたり・・(^-^)
手をつないだ村人たちがくるくる踊っている草原には羊たちも食べていた草がびっしりと生えていて、そこで村人たちと羊たちが間接的にリンクする。踊る彼らの足元のアップの画に冒頭で羊たちが首から下げていたベルの音が重なるのですね。単なるドキュメンタリーではない可愛い仕掛けでときめきました。
風で揺れる遊具が祭のあとの熱をうっすら感じさせて映画は終わりました。20分弱の映画でしたが、ふらっと小さな村へ遊びに来たような旅をしている感覚になりました。

「鉱」は出だしからリズミカルに脈を打つような・・まるで生きているような金属のアップとその音で始まりました。不思議な金属です。
鉱夫たちがトロッコに乗って鉱山の中を進んでゆきます。だんだんと狭く、そして暗くなってゆく。地球の内部の世界。ここからのシーンは作業現場での鉱夫たちの仕事風景です。
私が「炭坑」というワードからイメージしていたのは、鉱夫たちの汗と土まみれの身体・金属が土を掘るうるさい音・テラテラした機械油くらいでしたが、予想もしていなかった光景が地下300メートルには広がっていました。
鉱夫たちのヘルメットライトが暗闇を照らす唯一の光なのですが、彼らがあたりを見渡す度に土の表面や鉱夫たちの身体が瞬間的に照らされる。暗闇に浮き上がり、あちらこちらへ移動してゆくその丸い光がとても幻想的なのです。舞い上がる土ぼこりも光で照らされてふわりふわりとライトアップされています。真っ暗闇の中を縦横無尽に動き回る明確な白い光。美しい。
もちろん重厚な切削機械も照らされるのですが、その機械たちがどのように使われるのかわからなさ過ぎて段々とSFを観ている気分になっていきました。一番大きい機械をゆっくり映してゆく7分間の長回しでは、もう機械がでかい船にしか見えなくて興奮していました。「地底人の船だー!」と私が勝手にムラムラしている最中、機械の上に雑然と置かれたペットボトルが映って気が抜けて笑えました。ペットボトルのお陰で現実に戻れましたよ。
作業のあと地上に戻ってシャワーを浴び、お着替えをしたらまた明日。翌日また下へ降りてゆく鉱夫たちの笑い声で終わります。

両作品共、サラエボの空気の中で発せられる音と画がとても生々しくて力強かった!!あの迫力を映画館で体感できて大満足です。
この日は鑑賞後に監督のトークショーがあったのですが、前半はインタビュアー自身のお喋りでつまらなかったです。
ただ、後半と質問コーナーで小田監督のイケメンっぷりと照れた表情にメロメロになりました。「タルベーラ監督からの評価はA+でした(「鉱」は映画学校の卒業製作だったため)」と謙遜しながら答えている時や「鉱夫のみなさんに見てもらった時は緊張で吐きそうでした」と私の質問に答えてくれている時はもうキュン・・♡年季の入った革ジャンを着こなすイケメンなのに照れ顔は超チャーミング。
時間があればもっと細かい話を伺いたかった。
3年間の映画学校生活を終えてボスニア・ヘルツェゴビナから日本に戻り、現在は大阪に住む小田監督が今後どのような作品を撮り続けていくのかとっても楽しみです。
あーや

あーや