YAJ

太陽の下で 真実の北朝鮮のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

太陽の下で 真実の北朝鮮(2015年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

【주체사상】

 “北朝鮮の真実を暴くドキュメンタリー“byチェコ・ロシア・ドイツ・ラトビア・北朝鮮合作と言う、かつて地域政治を専攻した身としては何とも興味の湧く作品。

 チュチェ思想なんて言葉、30年ぶりに聞いたかもしれない(いまだに、あの国の人は普通に口にしてるんだ!驚)。さらに本作はロシア人の監督が撮ったというのだから、興味津々。

 予告編を観ると、ロシア人スタッフの撮影に対し、北朝鮮側のチャチャが都度都度入る。そこで、スタッフは撮影の目的を“真実を映す”ことに切りかえる。「録画スイッチを入れたままの撮影カメラを放置し、隠し撮りを敢行」とある。

 さて、どんな真実が映るのか?楽しみに鑑賞した。



(ネタバレ含む)



 正直言うと、思っていた北朝鮮の真実は映らない。予想(期待)していたのは、本来は映らないはずの、素のままの生活や、裏の真実などだ。
 残念ながら、映し出されたのは、“演出されている”という事実だけで、“演出されてない”真実は映っていない(ちょっと書き方がややこいいかな?)

 ドキュメンタリーの主人公は少年団へ入団する8歳の少女。この少年団への入団は相当エリートだということだろう。その暮らしぶりを密着取材するのだが、その少女の家庭環境がまず演出される。
 つまり少女のエリートっぷりに合わせるように、父親は本職の記者のところを、縫製工場の工場長に、母親も豆乳工場の模範職員。その設定上の“役”を演じる様をカメラは映し出す。

 期待したのは、その仮面を取った素の姿が映っているのかと思ったが、それらは残念ながら映らない。ただ、着飾り糊塗された虚飾の暮らしぶりが映し出されるだけ。その暮らしぶりを演出するのが当局の息のかかった北朝鮮側の監督(?)、演出家(?)たち。カメラはそれらの演技指導ぶりを映し続けるというドキュメンタリーだった。

 なので、観終わった瞬間は肩透かしを喰った気分だったのだが、あとからジワジワと、やはりスゴイ記録映像だなということが伝わってきた。その演出を、なんの抵抗もなく受け入れる家族の様子、そして協力するエキストラ(ものすごい数の!)、その存在の不気味さが、ボディブローのように効いてくるのだった。

 本当の真実は見えてこないけど、対外的に準備され映されたものは、ほぼフェイクであり、それがどのように作られ、そしてあの国の人民が普通に受け入れているという真実の恐ろしさ。

 印象的なラストシーン。
 少女は、少年団に入り、将来の夢を尋ねられ、教科書通りの答えを口にしながら落涙する。この涙に同情、恐怖を感じてはいけない。これは国の将来を憂いてや、今の生活ぶりを嘆いての涙ではなかろうと思う。何度も演出が繰り返される撮影のストレスによるものだろう。
 そこでロシア側の監督の指示が通訳に飛ぶ。「泣かせるな」「楽しいことを思い出させて」と。ここで初めてロシア側の指示という点がミソだ(それまでは全編ハングルしか聞こえてこない)。

 ロシア語を知らない人には、それがロシア語で出された指示だということに気づけないかもしれないのが残念なところだろう。字幕で( )付でもいいので(ロシア人監督の声)とでも入れておけばいいのに。つまり、そこだけが ”演出された”指示ではなく、真実を引き出そうとした指示という意味だと思う。

 ロシア人監督の指示を受けた通訳は「楽しい詩を思い出して」と諭すと少女は「尊敬する元帥の…」と、授業のたびに復誦させられているのだろう、国家元首を讃える詩を唱え始める。やがて涙は止まり、毅然とした選ばれしエリートたる表情に戻るのだった。彼女にとって、偉大なる将軍様、尊敬する国家元首のことを思う時、涙も止まり国民としての尊厳が蘇るのだ。わずか8歳の少女が、そうなるように教育されている! そのことが恐ろしい。

 やはりすごいドキュメンタリーだ。
YAJ

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