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廿日鼠と人間のjonajonaのレビュー・感想・評価

廿日鼠と人間(1939年製作の映画)
4.0
心優しきバカの怪力大男と、
利口で面倒を焼く相棒の小男。

利口な男は2人で農園をもって誰かに支配されたりしない未来を夢に描く。相棒のバカはその話を聞くのを楽しみにしている。

2人だけの秘密だ、3人だけの秘密だ、と言った先から秘密を漏らしていくバカしかいないの笑っちゃう。


【楽しかった点】
・主人公と相棒のバカの2人の関係性がとてもよかった。それだけで割と満足。
従兄弟のバカを昔はバカにしてて一緒にいると自分が利口な気になれた。記憶力は異常に弱くてすぐ忘れる。命令すればなんでも言ったことをやるバカ。けどある時流れの早い大きな川に高台から飛び込めと言った時、なんの躊躇いもなく飛び込んだ彼をみて2度とからかわないと誓った、ていうエピソードも素敵だった。

・貧しい農園労働者達の当時の環境下での侘しさを感じる描写が丁寧でおもしろかった。片腕を失ってて4年の労働期間を終えそうになってる老人、彼の大切に飼ってる元洋犬の犬が臭くて敵わないからタコ部屋に住む嫌なヤツに殺してやるよと迫られるシーンの悲しさは酷いもんだった。誰も味方してくれないのは意外だったけどリアル。

・老人も学がなくて主人公が語る夢に興奮して人に平気で喋っちゃったりと基本出てくるヤツがバカが多いのも面白いし、そのバカ率が世界観の表れでもあるという。

・ファムファタール的な役割の農園主のドラ息子の嫁が、狭い環境に囚われて気の毒にも見える点。旦那はワンツーばかり自慢する嫉妬の激しい束縛男で、出ては入ってくる農園労働者に話しかけに行く(どこまでのことをしてるのか不明だが)嫁をふしだらな女だと罵る。労働者からは煙たがられる。居場所がない。

・未来のことを語る利口な男の話を次は?次は?話して!と子供のようにせっつくバカ男のたこ部屋の風景がなぜか泣けてくる。利口な男も自分で自覚してた通り本当に賢ければこんな仕事してないんだけど、何かがうまくいかなかったんだろうね。一見迷惑ばかりかけるバカがいるお陰で過酷な環境にも耐えて頑張っていける、てのがこのシーンの2人のやり取りから感じられた。娯楽も喜びを感じられる機会も少ない世界の中で彼の語る未来が苦しい現実から浮遊できる唯一の楽しみだったんだろうな。

・ハブられてる黒人労働者とバカ男が接触して2人の関係の本質を追求されるシーン。誰かがいてほしい、て事なんだろうな。これを黒人のこの人が指摘するのもなんか皮肉な話でよくできてる。

【不満点】
見事な脚本だなあと思う一方であまりに悲しいラスト。それに、バカは死ななきゃ治らない的な話に決着していてそれが悲劇としてエモーショナルに演出されてるのだが、あまりに救いが無いのではないか?
悲劇の有効性、てものがあるのはシェイクスピアとか見てもわかるんだけど、病気で臭い老犬を殺処分するシークエンスと重ねて考えるとよりこの作品の突き放した姿勢は承諾しかねる。ひどい!笑
『もう彼を救う方法は一つしかない』って話してその結論なの?一緒に逃げてやれよバカヤロウ。相棒だろうが。
現実にもあり得る問題なのでより辛くなる…思わぬところで『わらの犬』の原型に出会った。この映画に対してサムペキンパーが『は?クソが!』って思って作ったんだとしたらマジでますます信用できる。



【名言語録】

ーカモンジョージ!
もっと話してくれよ!その先を!
早く話してくれジョージ!


ー俺たちには夢があるんだ。お金を貯めて農園主になるんさ。邪魔するんじゃない!
ー冗談言わないでよ。25セントあれば安酒一杯、グラスの底まで舐めるくせに。
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