ユカートマン

残像のユカートマンのレビュー・感想・評価

残像(2016年製作の映画)
3.8
戦後間もないポーランドでは、我々が抱くおそロシアのイメージそのものたるスターリン主義体制が敷かれ、思想や表現、言論が統制されていた。とりわけ曖昧な芸術は社会主義のイデオロギーに洗脳された労働者たちに疑問の念を抱かせてしまうとのことから禁じられていた。そんな時代に殺された、とある前衛芸術家の話。(実話)

卒論で旧共産圏における検閲に抗った映画作家について、ワイダを例に書く予定なのだけど、この映画にはわたしの抱く疑問点の答えが提示されていた。それがあまりにも完璧なものだから、もう卒論書く必要ないのでは、という気にさせられるほどだった。『アデル、ブルーは熱い色』を観て、セリフに散見されるフランス人の芸術観が成熟していて素敵だなと思ったが、この映画も同じぐらい良かった。黒人を描いたアートを「植民地の搾取」といって検閲を潜り抜けようとするシーンがとても切ない。寒々しく鬱屈としていながらも、繊細でどこか暖かみのある美しい画面の中で赤が印象的に使われているが(娘のコート、スターリンの横断幕など)、赤はご存知の通り共産主義のシンボルカラーでもあり、時代を反映しているのかなと思った。

当時美大生だったワイダは主人公を取り囲む大学生側で、彼のような運命を辿る人たちをたくさん見てきたのだろう。主人公が初老でかなり静かな作品だけど、「抵抗三部作」に負けないぐらい力強い抵抗。ワイダの遺作であると同時に時代の証人である彼自身からの警告的な遺言である。
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