猫脳髄

ヘキサゴン 恐怖の館の猫脳髄のレビュー・感想・評価

ヘキサゴン 恐怖の館(1972年製作の映画)
3.4
スティーブン・スピルバーグが初長編映画「激突!」(1971)の完成直後から取り掛かったテレビ映画。71年に出版された「エクソシスト」の影響下にあるオカルト・ホラー(同作の映画化は73年)である。

同時期の低予算ホラー、スリラー作品と比べるとカメラワークが非常に優秀なのと、オカルト・ホラーのフォーマットがほぼ完成形に達しており、脚本も優れていることがわかる。編集もテンポが良い。なるほど、撮影監督は以降もスピルバーグと協働するビル・バトラー、脚本は翌年に「燃えよドラゴン」(1973)を監督するロバート・クローズと、かなり優秀なスタッフが揃っている。テレビ映画とて侮れない。

片田舎にある屋敷を気に入りニューヨークから越してきたサンディ・デニスら主人公一家が、屋敷に潜む何物かに翻弄され、幼い息子の様子も次第におかしくなり…という筋書き。母親が子どもたちを守るために邪悪な存在と対峙するストーリーは今でこそフォーマット化しているが、72年当時にすでに完成形にあることがわかる。

上述したようなカメラワークと編集(※1)に加え、見逃せないのは極力、怪異を直接的に描写せず、音や風、俳優たちの表情といった間接的演出を採用している点である。「たたり」(1963)を嚆矢として、「ヘルハウス」(1973)、「チェンジリング」(1979)など間接話法を用いたホラー作品はいくつか存在するが、欧米ではついぞ主流になることはなかった(※2)。現代の大巨匠が駆け出し期の作品で導入していたとは、驚きと同時に嬉しくもなる。

また、屋敷に潜む存在に感化され、影響を受けるナイ―ヴな主婦役をデニスが好演しており、ミア・ファローやシシー・スペイセクらに並ぶいかにもニューロティックな演技にも注目である。

※1 子どもの異常行動とストレスフルな母親の表情やロングショットとクロースアップを交互にテンポよくカットバックすることで緊張感を高めることに成功している
※2 後にその血脈は、1990年代のわが国で、Jホラー・ムーヴメントととして継承されることになる
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