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オリエント急行殺人事件のトルーパーcomのレビュー・感想・評価

オリエント急行殺人事件(2017年製作の映画)
2.5
レイことデイジー・リドリーも出演したアガサクリスティの名作ミステリーの映画化。公開時に観にいけなかったのでレンタル視聴。

【1】原作について
小学校の頃、図書の時間というのがありました。
授業の時間になると全員で図書室へ行って本を読む。1時間で読み終わらなければ借りて持ち帰り、翌週の授業までに感想文の紙を書いて提出するという決まり。
感想文は1枚(1冊分)だけ出せばいいのですが、希望すれば週に5冊まで本は借りられるので、推理小説が好きだった僕はコナンドイルのシャーロックホームズシリーズなどを毎週たくさん選んでいました。

アガサクリスティは1番好きな作家ではなかったですが、本作ももちろんこの時期に借りて読みました。アガサ作品は子供にとっては多少難解だったような印象があります。

小学生の自分にとって、カタカナで書かれた外国人の人物名をたくさん把握するのは大変なので、目次の人物紹介と、列車の部屋番号の見取図のページにしおりをはさんで、どの部屋に誰がいるっていうのを都度確認しながら読んだ記憶。

誰が犯人なんだろうって一生懸命考えて読んで、犯人がわかったときにはかなりびっくりした想い出。
意外に最後があっさりしていたのも印象的です。

<以下微ネタバレあり感想>
※有名すぎて結末を知ってる人も多いと思うけれど、ミステリーなのでレビューでは犯人についてのネタバレはなしにしておきます。

【2】キャスト
キャストはとても豪華。
■ケネス・ブラナー
主人公ポアロは監督自身が演じている。MCUマイティソー第一作の監督さん。
ポアロにしては割とアクティブだった印象。アクションシーンも多少ありました。これは映像的に地味にしないためという意図的な部分もあるのかもしれないけれど、ポアロがアクションするっていうのはちょっと衝撃でした。

■ジョニーデップ
出演することだけ知っていたけど、どの役か知らずに観た。うさんくさくて気に入らないヤツな雰囲気がうまかったと思う。ケーキ食べたくなる。

■デイジー・リドリー
家庭教師のデブナムさん役。悪くはなかったけど、原作のイメージと比べると彼女は若すぎた気もする。
強い意志を感じさせる表情を出せる女優さんなので、役割には合っていたとは思います。ただ、原作ほどポアロと対話するシーンがなかった気がする。

■ウィリアム・デフォー
グリーンゴブリンの人が教授?役で登場。イメージ通り。悪役顔なのでミステリー映画との相性はいいですよね。
こいつ怪しいんじゃないか?って観客の目が止まる役者は多いほどいい。

■ミシェル・ファイファー
なかなか好演してました。彼女かジョニデがMVPかな。
アントマン&ワスプでジャネットを演じた美人のおばさま。

■マヌエルガルシア・ルルフォ
原作ではイタリア人だったのに名前も設定も変わってしまっていました。マグニフィセント7でバスケスを演じたメキシコ人俳優。
最初はアントマンでルイス役を演じたマイケルペーニャにオファーしていたらしい。

【3】演出/映像
本作は1974年にも映画化されており、その際はアカデミーの各賞に多数部門でノミネートされるなど演技や演出が大きく評価される一方で、鉄オタ的観客を歓喜させるようなオリエント急行の描写は少なめだった様子。

しかし本作では、オリエント急行の描写にけっこう力を入れていたなと感じます。よかった部分。

「接点のない見知らぬ人々が数日共に過ごし、目的地に到着後は二度と会うことがない。そこがいいんだよ」と鉄道会社の重役が語るシーン好きです。
序盤は戦前世界の豪華な旅映画的な雰囲気で楽しい。

■走行シーン
列車走行の描き方がよかった。
― 迫力の映像/重低音で響き渡るガタゴトという走行音
強く回転する車輪のアップはかっこいい。
列車が走り抜ける雪山などの映像もきれい。このへんは大画面で観る価値あったかも。映画化する意味はココなのでよかったと思う。
車輪の音が見事だったので思わず低音が強く出るヘッドホンを持ってきて使いました。

― 車内の揺れ
豪華客車なので食堂室内など内装が華麗なのですが、そこは戦前の鉄道。現代の列車とは技術が違うので車内はめちゃくちゃ揺れます。
高級ホテルのレストランのようなテーブルで乗客がワインを飲んでいるけど「ワイングラス倒れて割れないかな??」って心配になるほどガッタンガッタン揺れてる。
でもそこにリアルを感じて好印象。

― 車窓の景色
メイキング映像で紹介されていますが、特殊なカメラで実際に走る列車から車外の景色を撮影。
そして撮影してきた映像を列車のセットの窓に実際に映し出して役者に演技をさせているという驚き。
さらに列車のセットも実際に線路の上を走るように作ったらしい。
つまりグリーンバックでの撮影ではなく、役者たちは物理的に動く車内で、窓の外に走行中の景色が流れる状態で演じているのです。
これは本当にすごい。

■列車出発シーン
出発前にオリエント急行の1両目からポアロが歩いていく姿を車外から撮る長回しのシーンは素晴らしいです。楽しい。
ラストシーンでは逆に1両目へ向かって車内を歩き去っていくポアロを車内から映す映像。
冒頭との対比で、オリエント急行に乗り込み、事件が終わり去っていく彼をうまく演出できていたと思います。

■上部視点
被害者が殺害された直後、車室を上から映すカット(屋根を取り払って映しているような映像)すごくよかったのにちょっと少なかった。
なんですかね。原作小説に載っていた見取図を思い出させる絵だったから興奮したのかもしれません。

■ポアロの紹介。
オープニングで卵のエピソードと事件解決で彼の性格と能力を紹介。
原作にはないエピソードを入れて彼の紹介ができたし、車内の映像が続くと窮屈になるのでオープニングでロケを入れたのはいいアイデアだったと思う。
旅映画の雰囲気も出たと思います。

■推理披露シーン
クライマックスで推理を披露するシーン、原作ではオリエンタル急行内の食堂車(ポスターのイメージ)だったが、
列車が雪崩で停車中に車外のトンネル内でと変更されいていた。

登場人物を横1列に並べ、誰が犯人かを語りはじめるわけだが、構図が名画『最後の晩餐』を明らかに意識したものと思われる。
この中の誰が裏切者か、的な気持ちにさせるための演出。


【4】減点ポイント
■ポリコレ
この作品に限らずなんですが、近年のハリウッド映画はポリコレ配慮がノイズになってしまいます。
有名な原作なのに、黒人やヒスパニックの俳優を無理矢理登場させるためにキャラ設定を変更。原作ではイタリア人だった役をメキシコ系?の人種という設定にしたり、ポアロの手伝いをする医師をギリシャ人から黒人に変更。
なんだかなあって思ってしまう。戦前のヨーロッパに南米の人ってどのくらいいたのかな?とか余計なことが気になってしまう。

■ヒントの見せ方
アガサクリスティの小説は、物語が進むにつれて真相解明のヒントとなる証拠やヒントを主人公が発見するたびに読者も同時にそれを把握しながら推理を楽しむところにあると思います(材料はポアロと同様に与えられる)。
もう少し、1つ1つの証拠が見つかるたびに「これ大事ですよー」って観客に映像でしっかり提示するような描き方をしてほしかったなと思いました。
死亡推定時刻やアリバイの悩みとかだいぶ端折られていた気がするし。


■スコア
★2.5ですかね。
キャストは豪華で映像もきれいですが驚くようなシーンはあまりなかった無難な作品という印象。
原作ファンや、出演者のファンならまあ観ても損はないと思います。
エンディングでも示されていましたが、次作あるみたいですね。製作費の割には興収はよかったようです。
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