幽斎

オリエント急行殺人事件の幽斎のレビュー・感想・評価

オリエント急行殺人事件(2017年製作の映画)
3.4
Agatha Christie原作1934年著「オリエント急行殺人事件」子供の頃に読んだ時は感動的だった。特急じゃなくて急行なんだ、何かお洒落だなと(←そこ?)。以降ミステリーに嵌り今に至る訳ですが、1974年制作、Albert Finney主演で映画化。完璧な映像化で、此れに挑む強者は皆無だった。

しかし、2017年挑戦者が現れた、その名はKenneth Branagh、Laurence Olivierの再来と謳われた彼は舞台人としても映画人としても天才で、彼の功績は勲章モノだと思う点に何の揺らぎも無い。しかし、映画化勿論主演でと聞いた時は嫌な予感しか無かった。

4K8Kの時代らしく映像は綺麗で65mmフィルムのポテンシャルを如何なく発揮してる。しかし1974年版に有ったクラシカルな趣は其処には無く、現代劇を古めな衣装で演じてる感が強くまるでハリーポッターを観ている様だった。開始直後に原作にないアクションが有り蛇足に過ぎないが、Kenneth Branaghが「いまどき原作読む人居るんですか?」と言いそうで怖い。寧ろ1974年版しか見てない人を一杯食わしてやろうと改変した脚本に満足してそうで2度怖い。

原作が密室劇を演出すべく雪崩で脱線したシチュエーションをあっさり捨て、またアクションを盛り込む、もう滅茶苦茶だ。初見の方も居るだろうに容疑者への聞き取りも適当で緊迫感も無く、余計な要素を持ち込んだことで無駄にテンポよく進んで行く。ミステリーにあるべき観客に推理する時間すら与えない。

危惧した通りKenneth Branaghばかり目立つ。これだけの名優を揃えられたのは彼だからこそと私も思う。しかし、自分ばかり目立って折角の豪華キャストが全く活かされて無い。同じ俺様ムービーと言えばTom Cruiseですが、彼はきちんと自分の事を弁えて出演してる。この物語は決して探偵が主役ではない、日本でも明智小五郎より金田一耕助が人気なのも、彼が主役でも引き立て役に徹しているからだ。

新たなボアロ像を確立した、なんて言ってるのはFOXの重役達だろうが、だったら事件の結末を犯人に丸投げするのは職場放棄だと指摘したい。密室の列車を捨て最後の晩餐を模した舞台劇に持ち込んだのは、Kenneth Branaghが自分の得意な方法で「犯人は貴方ですね」とミステリー最大の見せ場を改変したが、演出で良いなと思ったのは此処だけだった。

私は決して「昔は良かった・・・」派ではないが、これはダメ。Johnny Deppの心意気とMichelle Pfeifferの熱演に敬意を表して1点ではないが、ミステリーにしては舞台が冬なのに色々暑苦しい(笑)。ナイルは呼ばれて行くもんじゃないだろう・・・観ますけどね。

これを観るなら、2015年BBC制作「そして誰もいなくなった」の方がお薦めです。テレビドラマながら重厚感あるサスペンスが楽しめます。
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