古川智教

台北ストーリーの古川智教のネタバレレビュー・内容・結末

台北ストーリー(1985年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

同一化が押し進められた先には、うまく重なり合うことのできなかった部分から差異が生まれるのだろうか。本当に差異には多様性が宿り、同一化を内から食い破るとはいかなくても、抵抗するためのよすがとなり得るのだろうか。否、同一化から差異は生まれない。「台北ストーリー」においてはその欺瞞が暴かれることになる。同一化が生み出すのはあくまで綻びである。差異に見せかけられた綻びでしかない。ホウ・シャオシェンが演じるアリョンが布の商いをしているのもそうした理由であり、アリョンはひたすら同一化により解れていく現実の綻びを取り繕おうと必死になっている。綻びは何も現在進行中であるだけに止まらない。過去に亘っても同一化は遡及していき、過去のみならず未来にまで同一化は侵食していく。少年野球のエースであったことを酒場で揶揄されて喧嘩をするアリョンや、日本での浮気相手に自分と結婚していても結果は同じだったと言うアリョン。至るところに同一化による綻びの徴が散りばめられている。そうした綻びを繕いきれなかった場合はどうなるか。選択肢は二つしかない。アリョンのように夜道でアジンを恋慕する少年にナイフで刺され、もはや繕うことのできない傷口から多量の血を溢れ出させるか、アジンのようにアメリカ=同一化の会社の台湾支社というさらなる同一化へと取り込まれていくかの二者択一しか残されていないのだ。
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