くりふ

サーミの血のくりふのレビュー・感想・評価

サーミの血(2016年製作の映画)
3.5
【家なき子】

何となくの後回しだったが、同テーマを扱う新作『トナカイは殺されて』を先に見て興味が湧き、U-NEXTにあったので、続けて見てみた。

サーミが映画でどのように描かれてきたか?は事例も少ないし、今までは意識しなかった。当事者の内側から描くようになった…或いはそうできるようになったのは、最近らしいですね。本作は、父がサーミ人、母がスウェーデン人という女性監督が実体験も含め、サーミ姉妹の対象的な生き方を描いたもの。

『トナカイ〜』同様、展開がまったりだがこれがサーミ時間というものか?それでも描かれることは興味深い。主人公少女の、暴走してでもスウェーデンと同化したい(=差別されたくない)思春期ギリ心も、保守な妹の真逆な心持ちも、それぞれ映像に、傷跡がキチンと刻まれている。

差別の実態で強烈だったのは、見る/見られる視線による支配や、主人公が●を切られる意味など。後者は『トナカイ〜』を見ていたからわかったが、お前はトナカイみたいなもん、とマウントされたわけね。

主人公は何をされても欲望のままに進むが、そこに希望は見えてこない。本作、いわば健康的な鬱映画かと。厳しい現実を見つめて安易に解決させない。一方、妹の方も、サーミの伝統を守った筈が、けっきょく最後のアレは、キリスト教に取り込まれたってことだよね。

姉妹を演じた二人は本物のサーミ姉妹で、演技は初めてらしいが、キチンと映画に成立させて素晴らしい。もちろん監督の手腕だろうけれど、語るべき物語を持っているからこそ、できたことだと思う。

『トナカイ〜』を見ても、根本解決のない限り、差別の撤廃はないだろうけれど、こうして映画で実態を知らせ続けることは、映画はそれしかできないにせよ、改めて大切だと思うのでした。

<2024.5.6記>
くりふ

くりふ