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ブルカの中の口紅のくりふのレビュー・感想・評価

ブルカの中の口紅(2016年製作の映画)
3.5
【ルージュのあとさき】

東京国際映画祭の上映にて。他にもみたいもの幾つかありましたが、予定が合ってみられたのはこれ一本でした。

個人的印象を一言でいうと、薄味のアルモドバル。

築115年!?のアパートに住まう、世代の違う4人のインド女性を追った群像劇。タイトルから、生死を賭けるような女性らかと思ったら、もっと普段着の映画でした。

ブルカを着けるのはうち二人。あとの二人は非ムスリムかな?平凡な日常の積み重ねに笑いも重なるが、いつしかその中に亀裂が広がる。しかし皆、わりとたくましいんですね…というか、もう慣れちゃっているのか(苦笑)。

ブルカの強かな活用法なども面白かったですね。いかにも「リベラルな中産階級に生まれ、大都市に暮らす」女性監督らしい映画でした。監督コメントが端的に作品を伝えています。

「私の内面には葛藤が常にあり、後ろに引き戻そうとする鎖のようなものを感じるのです。完全に自由だと、感じたことは一度もありません。おそらく自由を夢見る田舎町の女性と、何ら変わらないのだと思います」

言い方を変えると、明確な因果関係が描かれないんですよね。現代インド女性お悩み俯瞰。冷たく言えば、愚痴で終わっています。ただこの監督は、女性は可愛い生き物だ、という視点をずっと保っており、みているこちらは冷えません。

すこし面白かったのは、4人4様、それぞれの人生に応じた破局を迎えてしまうが…の先ですね。もちろん、ボリウッドのヒーローが助けに来てくれるなんてことはないわけで、では地べたに放り出された後、どうするか?

物語をそこに仕向けていたな、と納得できるラストでしたが、ハッピーともバッドとも言えぬ不思議な居心地の結びでした。

4人の1人に背負わせて、文字通り痛みを地に投げる描写が最後に出て来ますが、本作に登場するようなインド女性が背負う痛みは、この感覚なのだろうな、とは想像できました。日本なら、この程度でこんな仕打ちなんて…となるでしょうから。

全体、小さな映画で満足度もミニサイズでしたが、狙い通り的確に結末に落とした感があるので、良い映画だと思います。

上映後のQ&Aでは、監督と主演女優さんが登壇し、インド映画の現況など生の話が聞け、参考になりました。インディーズはやっぱり苦労しているようですね。

<2016.10.31記>
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