糸くず

ブルカの中の口紅の糸くずのレビュー・感想・評価

ブルカの中の口紅(2016年製作の映画)
3.3
第29回東京国際映画祭にて。

厳格な家庭に育ちながらも、歌手を夢見る女子大生。夫に隠れて始めた訪問販売の仕事で認められていく主婦。婚約者がいながら、仕事のパートナーである恋人と別れられないエステティシャン。水泳教室の講師に恋をしてしまった未亡人の中年女性。様々な抑圧にさらされる四人の女性たちが、自らの欲望や思いに忠実に生きようともがく様を描いた群像劇。

自由を、喜びを求める彼女たちは、ルールやモラルを逸脱することさえ厭わず、女子大生はショッピングモールで服や靴を万引し、中年女性は浴室に閉じこもってテレフォンセックスに没頭する。エステティシャンは、婚約を祝うパーティを抜け出し、物置部屋で恋人とセックスする(しかも、自分で携帯を持ってハメ撮りをする!)。

しかし、抑圧をはねのけようとする彼女たちの自由の代償は大きく、密かな抵抗を全て失敗に終わる。

インドにおける女性への抑圧の強さをひしひしと感じる物語だが、彼女たちの行動には、「女性であるがゆえに許されない」というより、単純に社会的にやってはいけない行為も含まれているように思えて、この映画に出てくる男たちが正しいとは全く思わないけども、だからといって、彼女たちが正しいとも思えなかったし、ルールやモラルを逸脱せねばならない切実さも欠けていたように思えた。もっとも、こんなことを言えるのはわたしが男性であるから言える傲慢で、わたしもまた彼女たちを「男たちの正しさ」に押し込めようとしているかもしれないけども。

ただ、言い訳にしか聞こえないのかもしれないけども、訪問販売員の主婦のエピソードは女性監督にしか描けないおぞましさがあり、「女性である」というだけで社会に出ることも許されず、夫の欲望の犠牲となり続ける彼女の苦しみは、男のわたしにも過酷なリアルとして胸に深々と刺さった。
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