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肉体の門のnonameのネタバレレビュー・内容・結末

肉体の門(1977年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

一番好きな映画は何か?という問いにはあまり意味がないが、私があえて一つ挙げるならこれだと思う。
どこまで書いていいのか分からないが、書いてみる。
原作読了済み。1964年版、1988年版鑑賞済み。1948年版は見ていない。
基本的には64年版に手を加えたような構成になっているが、これがダントツでリアル、原作以上にリアルだった。
パンパン狩りはMPと警察が共同で行っていたが、そういったディティールを丁寧に描写しざっくりした原作に肉付けしてある。
占領期関係の史料も読み漁ったが、それらから得た情報と一致していて矛盾がない。

冒頭で加山麗子がアメリカ人兵士2人に強●されるシーンだが、内務省警保局が作成した資料(「敗戦前後の社会情勢 第7巻 進駐軍の不法行為」に掲載)によれば、当時はアメリカ人兵士が民間人を強●するぐらいは当たり前で、学校や病院では集団輪●事件が多発しており、休校するなどしていた。*
大森海岸近くにあった病院では、看護婦のみならず妊婦までがアメリカ兵50人の集団に輪●されている。
この作品よりもさらに凄惨な描写が多い「戦後残酷物語」では、アメリカ兵のグループが病院に乗り込んで陵辱の限りを尽くすシーンがあるが、つまりあれも実際に起きたことの再現でありフィクションではなかったわけだ。
しかも現実はもっと大規模だった。

64年版や88年版は所詮は一般向け娯楽映画であり、陰鬱になる描写は抑えて明るく活気と秩序ある世界観にアレンジしてある。
この77年版や戦後残酷物語はポルノ映画だからこそ目を覆うような史実を再現できたのだろう。
制作陣もその事を分かっていて、我々なら何が起きていたか伝えられると考えていたのかもしれない。
とは言え、アメリカ人が小●生を強●したあと下半身を切り裂いて殺害するというような猟奇的な事件なども起きていたので、現実に比べればこれでもかなりマイルドと言える。
戦時中に子どもたちが空襲を避けるため田舎へ疎開したことは有名だが、戦後に行われたもう一つの疎開については語られる機会も少なく、ほとんど知られていないだろう。
アメリカ人の強●から若い女性を守るために、田舎へ疎開させていたのである。(ただし上級国民のみ)
このことが、小岩の東京パレスなどアメリカ人相手の公娼施設、「特殊慰安施設協会」の設置へと繋がっていくことになる。

本作で興味深いのが、アメリカ人による暴行を目にした復員兵がつぶやく「なんで本土決戦をやらなかったんだ」というセリフ。
そして山口美也子演じるパンパン“関東小政”と服毒自殺を謀る別の復員兵の会話「あんたら男どもが負けちまったからこんな風になったんだろ、責任とんなよ」「天皇陛下、バ・・・バカヤロウ!」というセリフ。
戦争を題材とした作品はお決まりのように反戦をテーマとしているが、原作には存在しないこれらのセリフからは反戦思想や戦争が終わって安堵したというような想いは微塵も感じ取れない。
なぜ降伏したんだ、もっと戦えただろうが、という意思が垣間見える。
関東小政と復員兵のやり取りは64年版をベースとしたシーンではあるが、割と軽いタッチであっさりしているあちらと比べ、全面降伏を決めた日本政府への恨み骨髄で改変してあるように感じられた。
他方、88年版では、男が勝手に戦争をしたせいだというセリフに変わり反戦色の強いニュアンスに改変されており、88年版の登場人物たちからは軍国主義教育を受けて育って来たバックボーンが感じ取れない。
戦後シチュエーションという箱庭の中で現代の女優たちが反戦をテーマにしたお芝居をしているようにしか見えない。
95年放送の金曜エンターテイメント「女たちの戦争」の方が遥かにいい出来だった。

*終戦直後はプレスコードが敷かれていなかったため、この事件は新聞やラジオでも報じられた。
GHQがアメリカ人による犯罪行為に関する報道を禁じたのは、上陸から約一ヶ月後の1945年9月19日である。
結果、この規制から占領が解けるまでの約6年半の間にどれほどの事件が起きたのかは歴史の闇に封印されている。
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