半兵衛

肉体の門の半兵衛のレビュー・感想・評価

肉体の門(1977年製作の映画)
3.5
ポルノ映画と発表当時センセーショナルな小説として話題を呼んだ娼婦たちの生態を生々しく綴った『肉体の門』、相性は良さそうなのにいざやってみると原作が持つ文芸としての品格に足を引っ張っられてポルノ映画特有のエロスが薄まってしまっている。もっとも谷崎潤一郎(『鍵』)や吉行淳之介(『暗室』)といった文学エロ映画でも同じ印象を受けたので、ロマンポルノで高名な小説家の作品を映像化すると作り手たちが原作を尊重するあまり作品を再現するほうに比重が掛かってしまうのかも。

それでも大量のエキストラや丁寧に作られた廃墟のセットなど日活撮影所の底力を見せつけられ感服したし、何よりメインキャストを務める娼婦メンバーに山口美也子、渡辺とく子、宮下順子といった芝居が出来る面子が揃っているので安定感があり新人で演技がやや拙い加山麗子を見事にサポートしている。そして高橋明、榎木兵衛などといったロマンポルノ常連俳優陣による戦争で負けた男たちの演技も◎。

ただ致命的なのは廃墟で売春行為を営む娼婦の共同体に穴を開けるという重要な役割を果たす伊吹を演じる役者に野性的な男性フェロモンが不足しており、自分達の暮らしを平穏にするため好きな男を作らないという掟を決めて暮らしている彼女たちの底にある欲求不満をその魅力的な男性力で引きずり出し結束力を崩壊させるドラマに今一つ説得力が無くなっていること。また役柄も荒々しさよりも戦争で負けたことへのコンプレックスを抱いている人間性を前面に描かれていて少し違和感が残る。

様々なドラマの果てに生を選んだ娼婦たちによるラストは加山麗子の決意を秘めた顔立ちも相まって心をうたれ裸になる女性がメインとなるロマンポルノらしい生きる力を与えられたような余韻をもたらす、でも肝心のあの人の行方は…というのは突っ込んではいけないのか。

娼婦四人のキャラクターも味わい深いが、個人的には結核を患い明日が見えない状態で生活している渡辺とく子の戦後に対する虚無を引きずった女性像が心に残る。そんな彼女がある事情で薬物中毒と化し、虚無と快楽に溺れていき果てていく(寝たきりの演技が凄い)姿は圧巻。

西村昭五郎監督の演出は原作らしさと脚本を手掛けた田中陽造による死と生の世界観を忠実に再現するという職人ぶりを見事に発揮。冒頭とラストが繋がっているという演出も決まっている。
半兵衛

半兵衛